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DATE/ 2019.09.24

なぜ東大は世界の大学ランキングが低いのか?

 2019年8月、上海のコンサル会社「Shanghai Ranking Consultancy」より、「世界大学アカデミックランキング」(Academic Ranking of World Universities,略称:ARWU。「世界大学学術ランキング」と訳される場合もあります)の2019年度版が公開されました。

 「世界大学アカデミックランキング」は、2003年から上海交通大学によって実施され、2009年からは「Shanghai Ranking Consultancy」が毎年発表している、研究機関としての大学の貢献度を評価するランキングです。

世界の大学トップ10と500位以内の日本の大学

 「世界大学アカデミックランキング」2019のトップ10および、日本の大学のランクインの結果を見てみましょう。映えあるトップ10大学は、以下の通りとなっています。

【「世界大学アカデミックランキング」2019・トップ10】
1位「ハーバード大学」(アメリカ)
2位「スタンフォード大学」(アメリカ)
3位「ケンブリッジ大学」(イギリス)
4位「マサチューセッツ工科大学(MIT)」(アメリカ)
5位「カリフォルニア大学バークレー校」(アメリカ)
6位「プリンストン大学」(アメリカ)
7位「オックスフォード大学」(イギリス)
8位「コロンビア大学」(アメリカ)
9位「カリフォルニア工科大学」(アメリカ)
10位「シカゴ大学」(アメリカ)

 残念ながら日本の大学のランクインはありませんでした。そしてアメリカとイギリス以外の国で、トップ20以内にランクインした大学は、19位に入ったチューリヒ工科大学(スイス)だけとなっています。ちなみにトップ10は前年の2018年から順位の変動はなく、1位のハーバード大学は2003年の開始から17年連続の首位となっています。

 では日本の大学の最高位は何位なのでしょうか。またトップ500位までにどんな大学が何校ランクインしているのでしょうか。トップ500位以内にランクインした日本の大学は、以下の通りです。なお、101~150位、151~200位は、採点上は同点、記載はアルファベット順となっています。

【「世界大学アカデミックランキング」2019(日本・500位まで)】
25位「東京大学」
32位「京都大学」
90位「名古屋大学」
101~150位「東北大学」「東京工業大学」
151~200位「北海道大学」「大阪大学」
201~300位「九州大学」「筑波大学」
301~400位「慶應義塾大学」
401~500位「千葉大学」「神戸大学」「岡山大学」「東京理科大学」

 ランクインした日本の大学のうち、トップは前年に続き東京大学でした。ただし、前年の22位から3ランクダウンしています。一方、前年同様2番手となった京都大学は、前年の35位から3ランクアップしています。

世界の大学ランキング・6項目の評価指標

 ところで、「世界大学アカデミックランキング」のランクづけは、どのような基準で行われているのでしょうか。実は「世界大学アカデミックランキング」には、以下のような独自の指標が用いられています。

【「世界大学アカデミックランキング」Methodology(6項目の評価指標)】
1)「Alumni」(卒業生の受賞):ノーベル賞、フィールズ賞を受賞した卒業生数(10%)
2)「Award」(教員の受賞):機関在籍中にノーベル賞、フィールズ賞を受賞したスタッフ数(20%)
3)「HiCi」(高被引用論文著者数):トムソン・ロイターによって選ばれた「高被引用論文著者数」の総数(20%)
4)「N&S」(Nature and Science論文):過去5年間で『Nature』および『Science』に掲載された論文の総数(20%)
5)「PUB」(論文数):過去1年以内にSCIEおよびSSCIに収録された論文の総数(20%)
6)「PCP」(教員一人あたりの実績):上記5項目を教員数で割って算出されたスコアによって評価(10%)

 【「世界大学アカデミックランキング」Methodologyの注】
*「Award」:ともに受賞年度によって、直近10年が100%、以下10年単位で10ずつ減少の補正を掛ける。
*「N&S」:人文・社会科学に特化した大学の場合は、N&Sを使用せずに代理の指標を用いる。
*『Nature(ネーチャー)』はイギリスの総合科学誌、『Science(サイエンス)』はアメリカの総合科学誌。
*「PUB」は責任編集者を100%とし、筆頭著者は50%、第二著者は25%、以下10%の補正を掛ける。
*「Science Citation Index Expanded(SCIE)」は自然科学論文引用索引、「Social Sciences Citation Index(SSCI)」は社会科学論文引用索引。

 そして、「世界大学アカデミックランキング」2019のトップ10および25位の東京大学の6項目ごとの評価指標は、以下の通りになっています。

【1)「Alumni」、2)「Award」、3)「HiCi」、4)「N&S」、5)「PUB」、6)「PCP」】
1位「ハーバード大学」:1)100.0、2)100.0、3)100.0、4)100.0、5)100.0、6)78.2
2位「スタンフォード大学」:1)45.2、2)88.5、3)73.3、4)79.2、5)76.6、6)53.8
3位「ケンブリッジ大学」:1)80.7、2)99.8、3)53.9、4)58.1、5)71.9、6)58.9
4位「マサチューセッツ工科大学(MIT)」:1)72.0、2)83.6、3)49.2、4)69.4、5)65.2、6)68.1
5位「カリフォルニア大学バークレー校」:1)67.1、2)78.4、3)58.7、4)68.5、5)64.7、6)57.1
6位「プリンストン大学」:1)59.6、2)97.9、3)35.9、4)48.1、5)46.5、6)70.5
7位「オックスフォード大学」:1)48.9、2)54.2、3)56.3、4)55.1、5)78.8、6)45.9
8位「コロンビア大学」:1)61.4、2)67.2、3)45.8、4)56.0、5)72.8、6)33.1
9位「カリフォルニア工科大学」:1)52.3、2)70.6、3)36.7、4)57.7、5)45.4、6)100.0
10位「シカゴ大学」:1)59.6、2)90.1、3)35.2、4)41.1、5)52.1、6)42.9
25位「東京大学」:1)37.6、2)25.0、3)23.2、4)44.2、5)73.2、6)28.9

 以上のように、あらためて6項目の評価指標を見てみると、1位の「ハーバード大学」の格別さが際立ちます。また、トップ5は全体的に安定していることや、トップ10は強みの柱が幾本かあることなどがうかがえます。

 しかし例えば、5)「PUB」や4)「N&S」を取り出すと、25位の「東京大学」であってもトップ10圏内にも食い込めたり近接したりしていることがわかります。ただし、「東京大学」は、3)「HiCi」が特に低いことなども見えてきます。しかしその背景には、英語圏と非英語圏での論文の扱われ方の格差なども潜んでいるように思われます。

世界の大学ランキングの活用法

 他方、「世界大学アカデミックランキング」以外にも、世界的な大学ランキングは多数あり、さまざまな機関により作成されています。

 例えば、イギリスの教育専門誌『Times Higher Education(タイムズ・ハイアー・エデュケーション)』が2004年から発表している「THE世界大学ランキング」、同じくイギリスの大学評価機関「Quacquarelli Symonds:QS(クアクアレリ・シモン)」が2004年から発表している「QS世界大学ランキング」、サウジアラビアの「The Center for World University Rankings:CWUR(世界大学ランキングセンター)」による「CWUR世界大学ランキング」などが挙げられます。

 つまり「世界大学ランキング」はいくつもあり、どれか一つが絶対的な高等教育の基準でも価値観でもありえません。その中の一つである「世界大学アカデミックランキング」は、もともと上海交通大学教授の劉念才(Liu Niancai)氏により、「同大をはじめとする中国のトップクラスの研究大学をアメリカの研究大学のデータで比較し、米国に負けない“ワールドクラス”の研究大学とするための戦略とタイムテーブル策定を目的として開始したと言われる」と、大阪大学准教授の藤井翔太氏は述べています。

 同様に東北大学教授の米澤彰純氏も、「劉先生が何度も直接おっしゃっている話ですが、これはもとは中国向けだったと、国内向けに作ったものであるということをおっしゃっていた」と述べているように、つまりは「世界大学アカデミックランキング」の本義は、ランキング上位の世界の大学と中国の大学の違いを明らかにし、中国国内向けのアピールに活用することにあるといえます。

 これらのことを踏まえて米澤氏は、「世界大学アカデミックランキング」に対して、「逆に言えば中国の国内向けの問題に対して、我々は踊らされているのではないかと思います」と示教しています。

 もちろん、世界に広く通用する研究を行い、東京大学のみならず日本の大学が世界に開かれ、教育の水準を上げる取り組みは重要です。しかし、安易にランキングの順位のみで大学や教育の質を語ることは、かえって本質を見誤ることにも繋がりかねません。

 藤井氏も「世界大学ランキングを理解するには、順位の上下にのみ一喜一憂するだけでなく、ランキングのMethodology(評価指標、評価の方法)を理解し、毎年どのように評価方法が変更されているのかしっかり把握して議論することが重要である」と警鐘を鳴らしています。

 数多の世界の大学ランキングのMethodologyを理解し利活用することによって、東京大学のみならず日本の大学が真に世界的な大学となるための課題が見えてくるかもしれません。

<参考文献・参考サイト>
・Academic Ranking of World Universities 2019
http://www.shanghairanking.com/ARWU2019.html
・東大は世界25位。「世界大学アカデミックランキング」 - Business Insider
https://www.businessinsider.jp/post-196904
・「世界大学ランキング」、『日本大百科全書』(矢野武著、小学館)
・世界的大競争時代における 日本のトップ大学の運命 - 一橋大学
http://www.hit-u.ac.jp/intl-strat/news/2007/pdf/20080612-3.pdf
・「世界ランキングの概要」、『世界大学ランキングと知の序列化』(藤井翔太著、石川真由美編、京都大学学術出版会)

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