テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.01.23

賃貸と持ち家…「老後の賃貸」のリスクとは?

 よく「賃貸 vs 持ち家」という論争を目にします。近年の傾向としては、賃貸推しでしょうか。家を買う場合、組んだローンが重くのしかかることをその理由の一つにあげています。45歳以上の中高年からのリストラが増えており、現状の収入を維持できなくなる可能性を想定してのことになります。加えて、年金制度も今後どうなるか、不安の影をおとしています。

 では、「生涯賃貸」という選択にはリスクがないのでしょうか?

老後に賃貸のリスクは大きく3つある

(1) 年金が減って家賃が払えなくなるリスク

 多くの方は毎月の家賃を年金から支払うことになりますが、金融庁が2019年5月に発表して話題になった『高齢社会における資産形成・管理 報告書(案)』にも「少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい。」と書かれており、年金支給額が減らされる確率はかなり高いと言えます。そうなると、支払いが苦しくなる可能性があります。もちろん、持ち家であっても、毎月ある程度の支出(固定資産税やマンションの管理費など)は発生しますが、基本的に家賃よりかなり小額になります。

(2) 想定より長生きしてしまって老後資金が底をつくリスク

 賃貸である以上、毎月家賃を払う必要がありますが、老後資金は無限にあるわけではありません。前述の金融庁の報告書案でも、「年金だけでは老後資金が不足するため、約1300~2000万円程度の蓄えが必要」という旨が書かれています。

 しかし、「持ち家」なら、2000万円で十分かもしれませんが、「賃貸」となると、2000万円ではとても足りません。仮に、毎月5万の家賃を60歳から90歳まで30年間払い続けると単純計算で1800万、7万円だと2520万円になります。これに生活費が加わるわけですから、全く足りません。

 もちろん、持ち家の場合でも、コストはゼロではありませんが、「賃貸」の場合、毎月の額が大きいだけに自分が想定していたより長生きしてしまった場合に資金が尽きる「長生きリスク」が大きくなってしまいます。

(3) 家主から契約を断られるリスク

 若い時は賃貸物件を借りる際に苦労することは少ないですが、高齢になると賃貸物件は借りづらくなる傾向があります。

 賃貸のメリットは生活レベルに見合った物件に引っ越しできるところにあります。契約の難度は、賃貸そのものではなく高齢化によるところです。

 持ち家の場合も、ローンの支払いばかりでなく、経年劣化による修繕費、場所によっては高額な固定資産税を支払うことができなくなるというリスクもあります。

 持ち家、賃貸ともに高齢化によるリスクは避けられないといってよいでしょう。持ち家、賃貸ともにメリット・デメリットがあり、リスクは高齢化にあるのです。

家を借りられないリスクは減少していく可能性も

 長い目で見れば、家を借りられないリスクは減少していく可能性があります。

 日本は超高齢化社会と言われるほどに高齢者が増えていますが、その一方で若者が減り、人口が減少していくため空き家は増加していきます。少し古いデータですが、国交省のレポートでは、1983年から2013年までの30年間で空き家の数は三倍近く増加しており、今後も増え続けていきます。

 そうなると、家主は「入居者がいないよりは高齢者でも住んで欲しい」と考え、高齢での契約も容易になる可能性があります。結果、主なリスクは資金に収斂されます。ここがクリアになるならば、「生涯賃貸」もアリでしょう。

 持ち家と賃貸、どちら選択をするにしても、それぞれのメリット・デメリットを鑑みて、自分にあったライフプランから最適な選択をしたいものです。

<参考サイト>
・金融審議会市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案) https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190522/01.pdf
・空き家の現状と課題(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001125948.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
2

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
3

だべったら生存期間が倍に…ストレスマネジメントの重要性

だべったら生存期間が倍に…ストレスマネジメントの重要性

新しいアンチエイジングへの挑戦(1)患者と伴走する医者の存在

「百年健康」を旗印に健康寿命の延伸とアンチエイジングのための研究が進む医療業界。そうした状況の中、本職である泌尿器科の診療とともにデジタルセラピューティックス、さらに遺伝子を用いて生物としての年齢を測る研究など...
収録日:2024/06/26
追加日:2024/10/10
堀江重郎
順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授
4

石破新総裁誕生から考える政治家の運と『マカーマート』

石破新総裁誕生から考える政治家の運と『マカーマート』

『マカーマート』から読む政治家の運(1)中世アラブの知恵と現代の日本政治

人間とりわけ政治家にとって運がいいとはどういうことか。それを考える上で読むべき古典がある。それが中世アラブ文学の古典で教養人必読の書ともいえる、アル・ハリーリー作の『マカーマート』である。巧みなウィットと弁舌が...
収録日:2024/10/02
追加日:2024/10/19
山内昌之
東京大学名誉教授
5

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家