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DATE/ 2020.08.01

「クチャラー」はなぜ無自覚なのか?

 “クチャクチャ音を立てながら食べる人”を指す「クチャラー」は、数多くの食事マナーランキングにおいて、ワースト首位および上位の常連となっています。

 楽しむべき食事の席で一緒にいる人に不快な思いをさせる「クチャラー」ですが、なぜ当の本人は無自覚なのでしょうか。また「クチャラー」には原因や対策法はあるでしょうか。いろいろな角度から「クチャラー」にせまってみたいと思います。

逆説的ながら…マナーは自覚しなければ無自覚

 フランス文学者の鹿島茂氏は、「国が変われば、マナーも変わる」と題したエッセイで、「礼儀作法や道徳に絶対的なものはありません。あくまで、時代や風土などによって左右される相対的なものにすぎません」と述べ、食事マナーの国による違いの例を挙げています。

1)飯椀と箸でのご飯の食べ方:日本と韓国の違い
 日本では飯椀は手で持ち上げ口に近づけて食べるのが礼儀とされており、お膳に飯椀を置いたまま口を近づけて食べることは「犬食い」といって食事マナーが悪いとなります。しかし韓国では、日本での「犬食い」こそが正しい食事マナーとされ、日本式は「猿食い」と呼ばれ禁忌の対象とされています。

2)食事に招待されたとき:日本と中国の違い
 食事に招待されたとき、日本では出されたご馳走は全部きれいに食べるのが礼儀残とされています。しかし中国では逆で、客が出されたごちそうを残らず全部食べることは「足りないからもっと出せ」という無言の圧力と解され、礼儀知らずとされています。

3)お皿に残ったソース:フランスとイギリスの違い
 フランスでは、肉や魚にかけられたソースが皿に残った場合、パンを使ってきれいに「掃除」して全部たべることが食事マナーです。なぜなら「料理で一番おいしいソースを残してしまうなんて、滅相もない」からです。一方、イギリスでこれをやったら、とんでもなく下品な人とされてしまいます。

 以上のように、マナーは社会や文化によって違います。社会生活を円滑に営むための交際上の動作や作法、一定の規範や方式のようなものは確かに存在するものの、それらはあくまでも習慣や風習であり、ましてや明文化やルール化されたものではありません。

 そのため、マナーは自覚しなければ無自覚であり、食事マナーの一つといえる「クチャラー」も、習慣やコミュニティの中で矯正されなかたり、問題視されていなかったりするのならば、自覚できないことなのかもしれません。

 とはいえ、食事中に咀嚼音を出すこと自体が多くの国でもいやがられる傾向にあり、その中でもさらに「クチャラー」はいやがられて不快に思われていることも事実です。そのような社会や文化で生活する以上、できるだけ自覚的に取り組み、一緒に食事を楽しむ人に不快を与えないことが求められます。

「クチャラー」防止!自覚したい食事マナー

 食事マナーは地域や文化によって違い、そのうえ多様なバリエーションがあるため、一概に特定ができません。しかしながら以下に、「クチャラー」防止に的を絞った代表的な5点の食事マナーを紹介したいと思います。

1)「口を閉じて食べる」
 「口を閉じて食べる」ことは、「クチャラー」とならないために一番重要なことです。以下の4点が難しい場合でも、この1点だけは必ず自覚して気をつけてください(以下2)~5)は、1)を実行するためにも、助けとなります)。

2)「一口にたくさん頬張らない」
 そもそも論として、食品によっては誰であっても口の中で咀嚼音は発生します。しかしながら、少しずつ食べることによって、咀嚼音を小さくしたり、クチャクチャとした最も不快な咀嚼音とはならないように注意したりはできるようになります。

3)「一口ごとによく噛み、しっかりと飲み込んでから次の食物を口に入れる」
 口の中の食物をよく噛まないうちに飲み物で流し込んだり、まだ口の中に食物が残っているのに他の食べ物を頬張ろうとしたりとすると、咀嚼音が漏れやすくなります。またよく噛むことは、顎や口周りの筋肉強化にもつながり、1)の助けともます。

4)「口を上手に動かせられる姿勢で食べる」
 食べるときの正しい姿勢として、1.上体はやや前に倒し気味に、2.肘や膝の関節はほぼ直角とし、3.足底はしっかりと床に接地――が推奨されています。また、正しい姿勢がとれるように、体のサイズにあった椅子とテーブルで食べることが理想です。正しい姿勢で食べることも、1)の助けともます。

5)「食事中は鼻呼吸を心がける」
 特別な理由がないかぎり普段から推奨されている鼻呼吸ですが、食べているときは特に鼻呼吸を心がけてください。口が開いてしまう口呼吸では、咀嚼音も漏れやすくなってしまいます。

自覚とトレーニング。そして専門医の受診

 しかし、自覚して取り組んでみても、どうしても食事中に口が開いてしまい、結果として「クチャラー」となってしまう人もいるかもしれません。そういった人はもしかしたら、口呼吸ができていなかったり、歯並びやかみ合わせに異常があったりするなど、ハードの問題があるのかもしれません。そういった人は、以下のどれかを試してほしいと思います。

 まず口呼吸に課題がある人にぜひ試してほしいのは、口腔外科医・古舘健氏の推奨する、口呼吸を改善する“「口」トレ”です。

【「口」トレ・1】
1)舌の正しい位置は、舌の先が上の前歯の後ろの粘膜(口蓋)に自然にある状態。
2)気づいたときに舌の位置を意識し、正しい位置である1)にしていく。
※1)をキープできることが理想であることを意識して行う。

【「口」トレ・2】
1)上下の唇を軽く合わせる。
2)上唇に下唇をできるだけ大きく被せ、下唇で上唇をしごくように数回上下に動かす。
3)上唇と下唇のそれぞれに、反発するように力を入れながらもとに戻す。
※1)~3)を10回繰り返して1セット。1日3セットを目標とする。

 それでも改善しない人は耳鼻咽喉科の受診をするなど、専門家に相談してください。同様に、歯並びやかみ合わせに課題のある人も歯科医院の受診をするなど、専門家に相談してください。

 さらに、正しい食事の姿勢が保てない、そもそもの噛む力がない、口を閉じる力がないなどは、腹筋や口輪筋などが弱っているのかもしれません。それぞれの筋肉に応じたトレーニングを取り入れてみてください。

 しかしながらやはり、どんなマナーであっても身につけるためには、自覚したうえでの正しい自己鍛錬を経た習慣化が必要となります。規則や法律に反していることではありませんが、マナーに無自覚でありつづける態度は、人間関係を壊しかねません。ぜひ一度、自身のマナーを「自覚する」という視点で見直してみてはいかがでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・食事マナーに注意! 女性が嫌う食べ方ワースト1は?
https://news.mynavi.jp/article/20101119-a026/
・永遠の社会問題!?「クチャラー」になる原因と不快感を抱く理由
https://macaro-ni.jp/35645
・クチャラーは論外! どうしても許せない他人の食事マナー6選
https://woman.mynavi.jp/article/161009-54/
・【気になる食事マナー第1位】クチャラー対処 子どもはどうする?
https://www.mamatenna.jp/article/86904/
・『幸福の条件』(鹿島茂著、潮出版社)
・日本と比較「独特で面白い世界のテーブルマナー」文化の違い全18カ国
https://muchaburireshipi.com/table-manners-difference
・「マナー」『日本国語大辞典』(小学館)
・「礼儀・礼義」『日本国語大辞典』(小学館)
・「礼儀作法」『日本大百科全書』(小学館)
・「作法」『世界大百科事典』(平凡社)
・「マナー」[カタカナ語]『イミダス 2018』(集英社)
・『咀嚼の本』(日本咀嚼学会編、口腔保健協会)
・『口がきれいだと、健康で長生きできる』(古舘健著、KADOKAWA)
・周囲は不快、本人無自覚? クチャクチャ食べる「クチャラー」は治せる?
https://otonanswer.jp/post/63267/
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