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DATE/ 2020.08.22

いま知っておきたい「免疫」の基礎知識

 2020年の世界および日本の重大ニュースのトップは、間違いなく「新型コロナウィルス」でしょう。ウィルスに打ち勝つ決定打となるワクチン開発、実用化には、ある程度の時間を費やさなければならないでしょうから、まずは自助努力として「免疫力」を高めたいところです。

 そこで、免疫の仕組みの基礎知識を、大阪大学免疫学フロンティア研究センター・招へい教授の宮坂昌之氏のお話をもとに学んでみたいと思います。

免疫の仕組み-第一の構え・自然免疫

 実は、わたしたちのからだに備わっている免疫力は二段構えという念の入った仕組みになっています。第一段階は生まれた時から誰もが持っている「自然免疫」、第二段階はからだが成長していく過程で発達していく「獲得免疫」です。つまり、からだの抵抗力とは、この2つの自然免疫機構と獲得免疫機構の総合力を指すのです。

 病原体に対してこの強固な免疫機構がどのように働いていくのかを見てみましょう。最初に外からの細菌やウィルスの侵入を防ぐ「物理的・化学的バリアー」と言われる自然免疫が効力を発揮します。この人体の門番的役割を果たすのが、皮膚や粘膜です。からだの表面を丈夫な城壁で囲って不審者から防御する、人体にとって必要不可欠な存在です。からだ一面を覆っているマスクと捉えてもいいかもしれません。

 さて、この第一関門を細菌、ウィルスに破られてしまった場合。今度は細胞性バリアーが作動します。いよいよ実戦力をもった免疫兵士の出番となるわけです。ここではまず、白血球の一種である食細胞が外敵と戦います。「食細胞」の名の通り、病原体を食べたり、自らで作った殺菌物質という武器で病原体を殺してしまいます。よく耳にする白血球の中のマクロファージはその代表的なもの。「貪食細胞」とも呼ばれ、文字通りからだにとって好ましくない異物を見つけては、むさぼり食ってしまうわけですね。

 ここまでが自然免疫と言われる仕組みで、これらは私たちが生まれながらに持っているお宝的パワーです。自然免疫は反応が早いので、病気を早期で抑えてしまうためにもとても大事な仕組みであるといえます。従来、自然免疫は即効性がある代わりに、一度対処した相手を覚えていられない、つまり免疫記憶を持たないとされてきました。しかし、最近、一度見た相手を比較的長く記憶して、免疫効果をたとえば1年以上持続させることができるという研究結果も出ており、ますますその力に期待がかかるところです。

免疫の仕組み-第二の構え・獲得免疫

 一方、敵の戦略も多様化しています。これらのバリアーをクリアしてしまう細菌、ウィルスは数多くあります。そこで、人体は自然免疫機構を突破した病原体をやっつけるべく、さらなる免疫兵士を繰り出します。ここからが獲得免疫機構の出番。すなわち生後、からだの中で発達した免疫の仕組みが働くのです。

 獲得免疫機構の仕組みも重層的なものとなっています。最初に動きだすのが「ヘルパーTリンパ球」で、これはいわゆる獲得免疫機構における司令塔的なもの。なぜなら、この司令塔が活性化して命令を出すことで、免疫細胞の最強軍団が縦横無尽に動きだすからです。

 最強軍団の先兵は、Bリンパ球。細胞の外側で抗体を作り抗原に立ち向かいます。ただ、抗体の間をくぐりぬけて細胞内に進入する病原体もあるわけで、ここからは細胞内という人体の本丸で戦うキラーT細胞が活躍します。これらの獲得免疫機構は自然免疫と比べて反応が遅いので、人体は一定の発病、疾病期間を耐えなければなりません。その代わり、免疫記憶があるので、次に同じ病原体が入ってきてもすでに対処する準備が作られているため、基本的には同じ病気にはかからない、あるいは軽症で済むということになります。

新しいウィルスに立ち向かうために

 いわゆる「免疫」とは自然免疫と獲得免疫の総合力だと言いましたが、もう少し詳しく言えば、免疫とは人体の物理的バリアーに加えて、食細胞、細胞の働きを左右する司令塔的ヘルパーT細胞、抗体をつくるBリンパ球、細胞内の病原体をやっつけるキラーT細胞、
これらの連携プレー、結束力の総称なのです。

 人類とさまざまな細菌やウィルスとの戦いの歴史は長く、また終わることもないと思われます。重要なのは、その戦いにおいて決定打となる新薬やワクチンの登場をただ待つだけでなく、免疫力を活性化する努力を普段の生活の中ですることではないでしょうか。たとえば、喫煙をひかえる、バランスのよい食事をとる、睡眠時間の確保と質に留意する、適度な運動をする等々。入浴の仕方一つで免疫力を高めることもできるそうです。

 自身の免疫力を高めて、目に見えない敵を過剰に恐れることなく、かつ正しく恐れてウィルス新時代に向かっていきたいものです。

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