テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.06.22

「自称」国家、ミクロネーションとは

地図に載らない「独立国家」

 唯一無二の短編小説作家・星新一さんが残した作品に、「マイ国家」という名作があります。これは、マイホームを独立国家「マイ国家」と称する男性が、訪問してきた銀行員をスパイ容疑で“逮捕”してしまう……という奇想天外な物語。勝手に独立国家をつくってしまうなんてことは、フィクションのなかだけのお話と思われる方も多いのではないでしょうか。

 しかし実は、それこそ自宅を国家と称するパターンも含め、勝手につくられた独立国家は世界中にたくさんあるのです。このような自称の国家を「ミクロネーション」といいます。ミクロネーションは国連などの国際機関や周辺の国家から正式な承認を得ていないので地図には載っていません。しかし、そこに住む人が独立国家であると主張すれば誰でも建国は可能です。なかには観光できる国もあり、独自の通貨や国旗、切手などを発行していることもあります。

 一般的なミクロネーションの定義には、次の3つが上げられます。

 支配地域がある:政府や国民が常時立ち入り可能で、そこに政府機関を定めて自由に建設や開発できる土地があること。

 独立活動を行っている:独立の意思を持っており、定期的に独立を維持するための国家活動を行っているか、行うことができる状態にあること。

 住民がいる:1人以上の住民がいること。

 また、「国連加盟国から独立国家と承認されていないこと」、「1平方kmの支配可能地域・5千人の定住可能な国民・自国の倍以上の領地を支配可能な武力のすべてを下回ること」、「武力による戦争を行わないこと」なども条件と考えられています。

ミクロネーションは個性的な国家ばかり

 実在のミクロネーションは、個性的な国ばかりです。どのような国があるのか見てみましょう。

 タロッサ王国:アメリカ・ウィスコンシン州にて、当時14歳のロバート・ベン・マディソンが建国。領土はロバートの寝室のみだったため、フィンランド語で「家の中」を意味する「タロッサ」を国名としました。ウェブサイト立ち上げで一躍有名になり、ネット経由の国民が急増。しかしこれが反体制派を生み、タロッサ共和国と分離する波乱の歴史がありました。現在は再統一された国家が続いています。

 ハット・リバー公国:レオナード・ケースリーが所有するオーストラリア西部の小麦畑が領土です。政府に小麦販売量を規制されて経営難に陥ったレオナードは、元弁護士のキャリアを活かして国際法を根拠に独立を宣言。通貨や国旗を制定し、年間約4万人が訪れる観光資源で収入を得ていました。しかし、レオナードの死後すぐにコロナ禍の収入減で運営が立ち行かなくなり、昨年消滅しています。

 クーゲルムーゲル共和国:オーストリア・ウィーンにて、芸術家のエドウィン・リップブルガーが建てた球体の家が領土です。この家はもともとエドウィンが工房にするつもりでした。しかしオーストリア側がこの形状の建物を違法と見なしたため、エドウィンは独立を宣言して国家を築き、建物の違法性をはねのけたのです。エドウィンが亡くなったあとも、息子のニコラウスが国家を引き継いでいます。

 シーランド公国:イギリス・サフォーク州沖の建造物が領土。実は、この領土は第二次世界大戦中にイギリス軍が建造した人工島のひとつで、海上要塞になっていました。建国したのは元イギリス軍少尉のロイ・ベーツ。違法なラジオ放送をして罪に問われたため、海上要塞に逃げ込んで独立宣言をしました。ロイは2012年に亡くなりましたが、息子のマイケルが後継者となり、国家は存続しています。

 成り立ちも領土も他に例を見ない国家ばかりですよね。なかには納得いかないことに対して抗議するために建国されたミクロネーションもあり、自分で国家を立ち上げる人々の情熱を感じます。その意思の強さや行動力には、見習いたい部分もあるのではないでしょうか。

<参考サイト>
ミクロネーションとは何だろう?世界一小さい国の数々│Compathy Magazine
https://www.compathy.net/magazine/2016/03/17/what-is-a-micronation-the-worlds-small-countries/2/
オーストラリア最古のミクロ国家、コロナ禍で消滅│CNN.co.jp
https://www.cnn.co.jp/world/35157991.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌

契機は白村江の戦い…非常時対応の中央集権国家と防人の歌

「集権と分権」から考える日本の核心(2)非常時対応の中央集権と東アジア情勢

律令国家は中国の先進性に倣おうと始まったといわれるが、実際はどうだろうか。当時の日本は白村江の戦いの後、唐と新羅が日本に攻め込むのではないかという危機感から「防人」という徴兵制をつくった。徴兵には戸籍を充実させ...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/25
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
2

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機

混迷を極める現代社会にあって、「学び」の意義はどこにあるのだろうか。次世代にどのような望みをわれわれが与えることができるのか。社会全体の運営を、いかに正しい知識と方針で進めていけるのか。一人ひとりの人生において...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/13
納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
3

カーボンニュートラル達成へ、エネルギー政策の変革は必須

カーボンニュートラル達成へ、エネルギー政策の変革は必須

日本のエネルギー政策大転換は可能か?(3)エネルギー政策大転換への提言

洋上や太陽光を活用した発電の素地がありながらその普及が遅れている日本。その遅れにはどのような要因があるのだろうか。最終話では、送電網の強化など喫緊の課題を取り上げるとともに、エネルギー政策を根本的に変換させる必...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/08/24
鈴木達治郎
長崎大学客員教授 NPO法人「ピースデポ」代表
4

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性

トランプ大統領は同盟国の役割を軽視し、むしろ「もっと使うべき手段だ」と考えているようである。そのようななかで、ヨーロッパ諸国も大きく軍事費を増やし、「負担のシフト」ともいうべき事態が起きている。そのなかでアジア...
収録日:2025/06/23
追加日:2025/08/21
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
5

ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下

ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(4)社会的時差ボケとメンタルヘルス

社会的時差ボケは、特に若年層にその影響が大きい。それはメンタルヘルスの悪化にもつながり、彼らの幸福度を低下させるため、ウェルビーイングの危機ともいうべき事態を招くことになる。ではどうすればいいのか。欧米で注目さ...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/23
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長