社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.10.19

なぜ日本人は会話が下手なのか

 「コミュ障」という言葉が端的にあらわすように、コミュニケーションに苦手意識や悩みを抱える人の数は増えています。なぜ日本人は会話が苦手なのか、どうすれば改善できるのかなど、コミュ障を克服するための方策を調べてみました。

日本人には会話が苦手・下手な人が多い?

 リモートワークが増え、オンラインでの会話が増えたことから注目されているのが「話す力」です。とくにウェブ会議などでは、端的に要領よく話すことが求められ、どっと疲れる人も多いのではないでしょうか。

 そもそも日本人はコミュニケーションについて、苦手意識の高い傾向があります。JTBが2018年に行った「コミュニケーション総合調査」では、コミュニケーション全般に関して、苦手と感じている人が58%と過半数を超えることが報告されました。

 では、具体的に何が苦手なのかというと、「複数の人の前で発表すること」が最大で、苦手な人は74.6%に上ります。次は「初めて会う人と話すこと」で、苦手は63.4%。逆に最も得意なのは「人の話を聞くこと」で、得意が77%という結果。主体的な発信や日常と違う場面でのコミュニケーションに対して苦手意識があり、人の話を聞くような受動的な場面、雑談という日常の場面については得意と感じている人が多いようです。

 調査では「大学生」「会社員」「主婦」「リタイア層」の4つのカテゴリーを設けていますが、最も苦手な人が多いのは「主婦」層の15.9%でした。JTBでは、「コミュニケーションの場数を踏む」と「スキルが高まり、苦手意識がなくなる」、そのため「コミュニケーションが楽しくなる」という正のコミュニケーションサイクルと、「コミュニケーションの場数を踏まない」ため「スキルが伸びず、苦手意識がある」と、「コミュニケーションが楽しくない」と負のコミュニケーションサイクルがあると分析しています。

どういう点が「下手」と思われてしまうのか

 かつての世界的なパンデミックの蔓延で、各国首脳の自国民に対する呼びかけが比較対照されました。長丁場になったため、演説ひとつに一喜一憂しても仕方ありませんが、最も心に響くと評価されたのがドイツのメルケル首相。国民を安心させ、理解と協力を呼びかけたテレビ演説は、今も温かく語られています。

 それに比べると、日本全土に緊急事態宣言を発するにあたり、用意された原稿を延々と読み上げた安倍元首相の演説は「アベノマスク」と同様の低い評価に終わってしまいました。対策自体の是非や出遅れはともかく、演説をするのも聞くのも慣れていない日本の「下手さ」加減を世界にアピールする結果になったのは残念です。

 しかし、その演説の「何が、どう伝わらなかったか」を考えるのは、日本人のコミュニケーションにおける不足をあぶり出す役に立ちます。

 まず、「長すぎる」。次に「相手の目(カメラ)を見ようとしない」。この二つは、「原稿を読み上げる」のが演説という誤解に基づいたものです。弁論(スピーチ)は書き言葉とは違うので、使える語彙も違えば、言葉以外のノンヴァーバルな表現が伝える割合も多くなります。聞き手は話の内容と同じぐらい、時にはそれ以上に話し手の目線や手の動きなどに注目しているのです。

 用意された原稿を読み上げるのは、「間違ってはいけない」という正解主義がもたらした弊害でしょう。本来のコミュニケーションは、互いの信頼を築き、関係を緊密にするために行われるもの。話し方が多少デコボコしていても、時に言い間違えがあっても、「話し手の頭や心から直接発している」と思われる以上に大切なことはありません。

 とくに苦手な人の多い「複数の人の前で発表する」場面では、政府トップの振る舞いを反面教師に、「原稿を人任せにしない」「間違いを恐れない」ことが肝心でしょう。数字など、細かく正確さが問われる部分については「お手元の資料」や「画面のテロップ」などの書き言葉に頼ることも大切です。

下手だと思われないよう心掛けること

 調査にもあったように「場数を踏む」ことが苦手意識を克服するカナメになります。「自分なんて」と思っている人ほど、そういう場を敬遠しがちですが、思い切って飛び込んでみましょう。

 最初から「うまく話す」ことにトライしなくても大丈夫。コミュニケーションの必要な場に入ると、得意そうに見える人とたくさん出会えます。そのなかでも、自分が「いい」と感じる人に狙いを定めて、その人の話し方をモデルとして利用することです。

 文章では「好きな作家の文章を書き写す」ことが上達法とされた時期が長く続きました。でも、大切なのは「丸写し」よりも「順番」や「構造」をとらえることです。スピーチで人を感動させる人が話した内容よりも、どんな順でどんなエピソードを、どんな人に向かって話したのかを、ちょっと分析してみると、真似することは思ったほど大変ではありません。

 とくに気の張る場面でのスピーチやプレゼンなどがある場合は、周囲の人たちを巻き込んでリハーサルに付き合ってもらうのもいい方法。一人ひとり話し方のクセは違うので、それを長所に変えていけるよう、おおらかな気持ちで臨んでみましょう。

 苦手だからと諦めず、一歩踏み出す勇気が肝心。思い切って話しかけてみると、新しい世界が広がることは間違いありません。

<参考サイト>
コミュニケーション総合調査<第3報>「コミュニケーションへの苦手意識」│JTB広報室
https://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00239&news_no=27
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質

中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景

チベット、内モンゴル、新疆ウイグルなど、少数民族に対する深刻な人権侵害をめぐって欧米諸国から強い批判を浴びている中国。しかし、こうした人権問題は今に始まったことではない。中華人民共和国建国の経緯と中国共産党の思...
収録日:2021/10/15
追加日:2021/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
2

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害

内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害

高度成長のために頑張った日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の評価を得たが、その後の日本企業の凋落、競争力の低下を考えると、その弊害を感じずにはおられない。読書人口が減っている現状をみると、いつのまにか「世界...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/12/01
3

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性

プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義

プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03
大塚有希子
法政大学専門職大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
4

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?

歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために

歴史上の出来事の本質を知るには、その真贋を見定めなければいけない。そのためにはどうすればいいのか。記述の異なる複数の本がある場合、いかにして真実を見極めるか。また、司馬遼太郎の作品が「歴史事実」として認識されて...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/12/02
5

ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係

ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係

熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か

お酒やコーヒーなど世の中には睡眠に良くないのではないかといわれるものがある。また、現代においては特に、スマホの「ブルーライト」が睡眠には大敵だといわれているが、それらは本当に悪者なのか。一般に良い睡眠を妨げると...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/30
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授