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「半導体不足」はなぜ起きたのか?
「半導体不足」が続いています。半導体とは「半導体集積回路」の略称で、さまざまな電子機器の頭脳となる部品です。半導体不足で影響が大きいのは、自動車がよく挙げられますが、ほかにもパソコン、ゲーム機、スマホ、デジタルカメラといった電子機器、炊飯器、洗濯機、冷蔵庫などの家電製品などにも使われています。社会的にも、ATM、ICカード、電車の運行管理システム、インターネット・通信回線など、さまざまな領域において半導体は不可欠です。半導体不足が長引けば、社会に混乱が生じる可能性もあります。半導体不足の背景には何があるのでしょうか。
この原料を半導体に加工するわけですが、この工場で使用する装置は数億円から100億円程度と、かなり高額です。さらにこれを工程ごとに購入する必要があります。つまり、一つの企業が設備投資をして作ろうとすると投資額がかさむ点からリスクが高くなります。こうして現在では多くの場合、工場を持たない半導体メーカーは設計開発にのみ注力し、製造はファウンドリーと呼ばれる製造受託会社に委託します。いわゆる「水平分業化」と呼ばれる分業形態です。この製造を受託しているファウンドリーの中で、世界最大の会社が台湾のTSMC。2020年のシェアでは約54%を担っています。ちなみに2位は韓国サムスン電子で17%です。
その後、コロナ禍におけるパソコンやテレビの需要などによりディズプレイ用の半導体が不足するなど、問題が深刻化します。さらに2020年9月以降はコロナ禍で低迷していた自動車市場が急速に回復し出しました。また2020年の12月にはアメリカのトランプ大統領が中国のHuawei(ファーウェイ)や海思半導体(ハイシリコン)に事実上の禁輸措置を発動します。このことで台湾や韓国のファウンドリーに注文が集中することになります。
こうして半導体生産は全く追いつかず、半導体を調達できなくなった自動車メーカー各社は2021年以降、操業停止や減産を迫られることになります。ここにあげた要因だけをまとめても、新技術による半導体需要の急増、アメリカと中国の対立、コロナによる急激な需要の変化、さまざまな災害といった4つの要素が複雑に絡み合っていることがわかります。また細かく見れば「コロナ禍で離れた工場労働者を再確保するのに時間がかかる」といったように、急激な需給の変化に対応できない状況もあります。こういった複雑な要素が絡みあいながら、半導体不足が長く続いているという状況です。
一方、EU加盟17カ国も今後2年から3年で最大1450億ユーロ(約19兆円)を半導体製造に投入します。日本もTSMCの工場を熊本に誘致、2022年に着工し2024年の稼働開始を目指しています。投資額は1兆円規模で、日本政府は5千億円を支援する方向です。半導体工場を国内に囲い込むことには、地政学リスクに備え、国内の産業を守る意図があります。半導体はあらゆる製品に使用され、かつ必要不可欠です。不足すればそれが経済成長のボトルネックとなります。生産体制をどのように安定化させていくか、各国で対策に追われている状況と言えます。
半導体製造はTSMC(台湾)が5割のシェア
半導体の原料となるのはシリコンです。ケイ素とも呼ばれるシリコンは地球上では酸素の次に多い元素なので、材料そのものが不足することはないでしょう。ただし、抽出して精錬するには大量の電力が必要になります。よってこのシリコン(金属シリコン・インゴット)は電力の安いオーストラリアや中国、ブラジルなどから輸入されているそうです。この原料を半導体に加工するわけですが、この工場で使用する装置は数億円から100億円程度と、かなり高額です。さらにこれを工程ごとに購入する必要があります。つまり、一つの企業が設備投資をして作ろうとすると投資額がかさむ点からリスクが高くなります。こうして現在では多くの場合、工場を持たない半導体メーカーは設計開発にのみ注力し、製造はファウンドリーと呼ばれる製造受託会社に委託します。いわゆる「水平分業化」と呼ばれる分業形態です。この製造を受託しているファウンドリーの中で、世界最大の会社が台湾のTSMC。2020年のシェアでは約54%を担っています。ちなみに2位は韓国サムスン電子で17%です。
パンデミックと米中対立
このように半導体は、世界全体で動くサプライチェーンの流れを通して生産されています。世界の半導体需要はこれまでにも日増しに高まってきました。2017年以降は5Gスマホやデータセンターでの需要がまず起点となり、2020年の春頃から半導体は不足し始めます。新型コロナのパンデミックが起こる前から半導体製造工場(ファブ)はすでにフル稼働状態だったようです。その後、コロナ禍におけるパソコンやテレビの需要などによりディズプレイ用の半導体が不足するなど、問題が深刻化します。さらに2020年9月以降はコロナ禍で低迷していた自動車市場が急速に回復し出しました。また2020年の12月にはアメリカのトランプ大統領が中国のHuawei(ファーウェイ)や海思半導体(ハイシリコン)に事実上の禁輸措置を発動します。このことで台湾や韓国のファウンドリーに注文が集中することになります。
災害による追い討ち
さらに2021年2月にはアメリカテキサス州は大寒波に見舞われ、同州の半導体工場は閉鎖されます。また同月には台湾でも深刻な水不足が発生し、大量の水が必要である半導体工場は操業できない事態に至ります。他にも2020年10月には旭化成マイクロシステム延岡事業所、2021年3月にはルネサスエレクトロニクスの那珂工場、2021年4月には最大手TSMCのFab 12B P6(第6期拡張ライン)で火災が発生するなど、相次ぐ災害に見舞われたことも痛手となりました。こうして半導体生産は全く追いつかず、半導体を調達できなくなった自動車メーカー各社は2021年以降、操業停止や減産を迫られることになります。ここにあげた要因だけをまとめても、新技術による半導体需要の急増、アメリカと中国の対立、コロナによる急激な需要の変化、さまざまな災害といった4つの要素が複雑に絡み合っていることがわかります。また細かく見れば「コロナ禍で離れた工場労働者を再確保するのに時間がかかる」といったように、急激な需給の変化に対応できない状況もあります。こういった複雑な要素が絡みあいながら、半導体不足が長く続いているという状況です。
各国で自国内に工場を誘致
今後も半導体需要はさらに伸びていくことが予想されます。この事態を受けて、アメリカはファウンドリー世界最大手である台湾TSMCの工場をアリゾナ州に誘致しています。新工場の建設費は120億ドル(約1.3兆円)。また、インテルもアリゾナ州の既存工場に新たに2つの工場を追加建設します。これにかかる金額は200億ドル(約2.2兆円)。また同社はアメリカとヨーロッパの工場でも新たにファンドリーサービスを開始するとのことです。一方、EU加盟17カ国も今後2年から3年で最大1450億ユーロ(約19兆円)を半導体製造に投入します。日本もTSMCの工場を熊本に誘致、2022年に着工し2024年の稼働開始を目指しています。投資額は1兆円規模で、日本政府は5千億円を支援する方向です。半導体工場を国内に囲い込むことには、地政学リスクに備え、国内の産業を守る意図があります。半導体はあらゆる製品に使用され、かつ必要不可欠です。不足すればそれが経済成長のボトルネックとなります。生産体制をどのように安定化させていくか、各国で対策に追われている状況と言えます。
<参考サイト>
ゲーム機や自動車などが品薄に。深刻な「半導体不足」がなぜ世界中で起きているのか?|野村證券
https://www.nomura.co.jp/el_borde/article/0003/
半導体材料 シリコンについて|HITACHI
https://www.hitachi-hightech.com/jp/products/device/semiconductor/silicon.html
半導体不足が日本の経済回復を遅らせる衝撃度、見落としてはいけない3つの視点|DIAMOND online
https://diamond.jp/articles/-/284816
ゲーム機や自動車などが品薄に。深刻な「半導体不足」がなぜ世界中で起きているのか?|野村證券
https://www.nomura.co.jp/el_borde/article/0003/
半導体材料 シリコンについて|HITACHI
https://www.hitachi-hightech.com/jp/products/device/semiconductor/silicon.html
半導体不足が日本の経済回復を遅らせる衝撃度、見落としてはいけない3つの視点|DIAMOND online
https://diamond.jp/articles/-/284816
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