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日本の侵略的外来種ワースト100
侵略的外来種とは
「セアカゴケグモにご注意ください」という自治体の注意喚起を目にして、不安な気持ちになった経験がある方は多いのではないでしょうか。このクモは強い神経毒を持つ毒グモで、特に雌の毒性が強く、咬まれると激痛、めまい、発熱などの症状が現れます。ただし基本的におとなしい性格なので、自分からほかの生物を襲うことはほとんどありません。このため、各自治体はうっかり触れるなどして刺激しないように呼びかけているのです。2020年時点のデータによると、セアカゴケグモは青森県・秋田県以外の地域で発見されています。しかし、もともと日本に住んでいたクモではなく、原産地はオーストラリアです。飛行機や船などの流通経路にまぎれて運ばれてきたのではないかと推測されており、日本では1995年に大阪府で初めて発見されました。生命力が強いため、生息地域を拡大して全国に広まったと考えられます。
このような、人間の活動によってはじめはいなかった地域にほかの地域から流入してきた生物を「外来種」といいます。セアカゴケグモのように人体への危険性が高い外来種もいますが、一方で人体に直接の危険がなくても地域の環境や生態系を乱したり壊したりしてしまうおそれのある外来種もいます。これらの生物は「侵略的外来種」と呼ばれ、ワースト100をまとめたリストがつくられています。
ワースト100はどのように選ばれたのか
「日本の侵略的外来種ワースト100」のリストは、生態学とその関連分野を研究する日本生態学会が、2003年の創立50周年記念に出版した「外来種ハンドブック」の付録資料として選び出しました。当時は、外来種から日本国内の生態系や農産業を守るための法律である「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(通称「外来生物法」、「特定外来生物被害防止法」)施行間近の時期で、まだ外来種への対策がきちんとできていませんでした。そこで日本生態学会は、生態系への影響が大きい「侵略的外来種」への社会的関心を得てより有効な外来種対策を確立するためにワースト100リストをつくったのです。
候補ははじめに「必ず選定すべきもの」と「選定することが望ましいもの」の二段階に分けられ、合計で約120種が上げられました。最終的にハンドブックの監修者がこの候補のなかからふさわしいものを選び出し、100種に絞られたそうです。
ワースト100にはセアカゴケグモのほか、伝染病を媒介するネッタイシマカなど人体に危険をもたらす外来種はもちろん、一見すると悪影響などなさそうな意外な生物も入っています。どのような意外な生物がいるのか見てみましょう。
意外な侵略的外来種
アライグマ:愛らしい外見が人気を集め、1970年代ごろにペットとして北アメリカから多く輸入されました。このうちの遺棄された個体が野生化し、旺盛な繁殖力で日本全土に生息地域を拡大。食欲も旺盛なので、農作物や日本在来の野生動物を食べてしまい、生態系を破壊するおそれがあります。ジャワマングース:1910年代ごろに、ハブの駆除目的でインドから沖縄県や奄美大島に輸入されました。ところが、ハブよりも捕食しやすい鳥やネズミなどを食べてしまい、生態系を脅かす結果に。しかも国指定の天然記念物であるヤンバルクイナなどを襲うので、保護対策が必要になっています。
グリーンアノール:1960年代ごろに、アメリカ軍の物資とともに北アメリカから小笠原諸島の父島と母島を中心に流入したと考えられているトカゲ。小笠原諸島は独自の生態系を持ちますが、固有種のオガサワラトンボなどはグリーンアノールに捕食されて父島と母島ではほぼ全滅してしまいました。
アメリカザリガニ:1927年に食用カエルのエサとして北アメリカから輸入されました。しかし日本ではカエルを食べる習慣が根づかず、産業の破綻とともに遺棄された個体が繁殖して日本全土に生息地域を拡大。雑食なので魚、昆虫、水草や田植えされた稲の苗も食べてしまい、生態系を乱します。
オオブタクサ:1952年に静岡県の清水港で初めて発見されたキク科の植物。北アメリカから輸入された家畜用のエサにまぎれこんでいたと考えられています。繁殖力が強く、河川敷などに群生して日本在来の植物を追いやってしまいます。また、夏から秋にかけての花粉症のアレルゲンにもなります。
カモガヤ:19世紀後半にヨーロッパなどから牧草として輸入されたイネ科の植物。定期的に輸入された結果、北海道から沖縄県まで分布しています。地下茎を伸ばして繁殖するため駆除が難しく、日本在来の植物の生態系を脅かします。花粉の飛散期間が長く、花粉症のアレルゲンにもなります。
かわいらしいアライグマも、身近なアメリカザリガニも侵略的外来種に選ばれているとは意外ですよね。しかし、侵略的と指定された生物たちにしてみれば、好きこのんで知らない土地に来たわけではありません。人間の都合で連れてこられただけなのです。「結局、自然を乱すのは人間」という自戒を、忘れないようにしたいですね。
ワースト100の全リストは以下になります。
・哺乳類:アライグマ、イノブタ、カイウサギ、タイワンザル、チョウセンイタチ、ニホンイタチ、ヌートリア、ノネコ、ジャワマングース、ヤギ
・鳥類:ガビチョウ、コウライキジ、シロガシラ、ソウシチョウ、ドバト
・爬虫類:カミツキガメ、グリーンアノール、タイワンスジオ、ミシシッピアカミミガメ
・両生類:ウシガエル、オオヒキガエル、シロアゴガエル
・魚類:オオクチバス、カダヤシ、コクチバス、ソウギョ、タイリクバラタナゴ、ニジマス、ブラウントラウト、ブルーギル
・昆虫:アメリカシロヒトリ、アリモドキゾウムシ、アルゼンチンアリ、アルファルファタコゾウムシ、イエシロアリ、イネミズゾウムシ、イモゾウムシ、インゲンテントウ、ウリミバエ、オンシツコナジラミ、カンシャコバネオナガカメムシ、カンショオサゾウムシ、シルバーリーフコナジラミ、セイヨウオオマルハナバチ、チャバネゴキブリ、トマトハモグリバエ、ネッタイシマカ、ヒロヘリアオイラガ、マメハモグリバエ、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、ヤノネカイガラムシ
・昆虫以外の節足動物:アメリカザリガニ、ウチダザリガニ、セアカゴケグモ、チチュウカイミドリガニ、トマトサビダニ
・軟体動物:アフリカマイマイ、カワヒバリガイ、コウロエンカワヒバリガイ、サカマキガイ、シナハマグリ、スクミリンゴガイ、チャコウラナメクジ、ムラサキイガイ、ヤマヒタチオビ
・その他の無脊椎動物:カサネカンザシ
・維管束植物:アカギ、アレチウリ、イタチハギ、イチビ、オオアレチノギク、オオアワダチソウ、オオオナモミ、オオカナダモ、オオキンケイギク、オオフサモ、オオブタクサ、オニウシノケグサ、外来種タンポポ種群、カモガヤ、キショウブ、コカナダモ、シナダレスズメガヤ、セイタカアワダチソウ、タチアワユキセンダングサ、ネバリノギク、ハリエンジュ、ハルザキヤマガラシ、ハルジオン、ヒメジョオン、ボタンウキクサ、ホテイアオイ
・維管束植物以外の植物:イチイヅタ
・寄生生物:アライグマ回虫、エキノコックス、ジャガイモシスト線虫、ネコ免疫不全ウイルス、マツノザイ線虫、ミツバチヘギイタダニ
<参考サイト>
・日本と世界のカルチャー coredake 日本の侵略的外来種ワースト100 一覧
https://coredake.com/culture/japanese-invasive-alien-species/
・環境省 侵略的な外来種
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html
・久光製薬株式会社 ブタクサにご用心!夏から秋のつらい花粉症
https://www.allegra.jp/hayfever/butakusa.html
・アレルラボ あまり聞かないイネ科花粉症。種類や特徴、症状などを知って対策につなげよう
https://brand.taisho.co.jp/allerlab/articles/024/
・日本と世界のカルチャー coredake 日本の侵略的外来種ワースト100 一覧
https://coredake.com/culture/japanese-invasive-alien-species/
・環境省 侵略的な外来種
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html
・久光製薬株式会社 ブタクサにご用心!夏から秋のつらい花粉症
https://www.allegra.jp/hayfever/butakusa.html
・アレルラボ あまり聞かないイネ科花粉症。種類や特徴、症状などを知って対策につなげよう
https://brand.taisho.co.jp/allerlab/articles/024/
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