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『最強の恐竜』はなんですか?最新研究でNo.1が決定
「続いては7歳のお友だちですね。質問をどうぞ!」
「いちばんつよいきょうりゅうはなんですか?」
NHKラジオ「子ども電話科学相談」は子どもたちが抱える科学に関する疑問や興味を直接専門家に質問できる教育番組です。番組は生放送の一発勝負。子どもの純粋な好奇心から放たれる超難問に、回答者の恐竜博士たちにも緊張が走ります。さて、どう答えたものか。
「体の大きなスーパーサウルスはどうかな?」
「…………はい」
「それとも、マプサウルスはどう? 群れで戦う、とか」
「…………はい」
いくつか提案してみても、声色から納得していないことがはっきりわかります。それどころか、難問に苦戦する先生たちに7歳の子が気を使っている。番組では最終的にスーパーサウルスがいいということになったものの、なんともすっきりしない終わり方になってしまいました。
「一番強い恐竜ってなんだろう?」
番組では一応の答えを出してみたものの、改めて考えるとわからなくなってきます。一番大きな恐竜が一番強いのか? それとも噛む力が強い恐竜だろうか? 一番頭が良い恐竜ってこともあるかもしれない。何をもって「最強の恐竜」とするのか、そこからしっかり考えないといけないのでは。
今回ご紹介する『最強の恐竜』(田中康平著、新潮新書)は、子どもの素朴な疑問に対し、新進気鋭の恐竜学者が本気で答えた恐竜研究ドキュメントです。最新の研究成果をもとに、さまざまな観点から恐竜の強さを分析し、最後に「最強の恐竜は◯◯である」とナンバーワンを結論づけています。その過程で、恐竜を研究するとは実際にはどのようなことなのかがわかるような記述になっており、先述のとおり恐竜研究のドキュメントとしても楽しめる一冊です。
著者の田中康平氏は、1985年名古屋市生まれの若手研究者です。専門は恐竜の繁殖行動や子育ての研究で、カナダのカルガリー大学で博士号を取得後、現在は筑波大学生命環境系助教として活躍しています。2024年現在、NHKの『子ども科学電話相談』の回答者も務めており、他の著書には『恐竜学者は止まらない! 読み解け、卵化石ミステリー』(創元社)があります。
目当ての化石が空振りに終わってしまいましたが、恐竜研究者は転んでもただでは起きません。せっかくウズベキスタンに来たので、首都タシケントの地質博物館に立ち寄り、恐竜化石の展示を見ていくことに。すると、ひときわ大きな上顎の化石が目に止まりました。ナゾの肉食恐竜の巨大化石…もしかして新種かも。
日本に帰国してから、田中氏は分析を開始します。骨の特徴をコンピュータで解析した結果、カルカロドントサウルス類というグループに属する可能性が高いとわかりました。
早速、国立科学博物館に収蔵されている近縁種の頭骨レプリカ標本を調べていきます。上顎骨と頭骨全体の長さを測っていき、すでにわかっている全長データを使って、両者の相関関係を求めます。統計分析の結果、上顎骨の長さと全長には高い相関があると判明しました。得られた数式にウズベキスタンの標本を当てはめてみると、全長7.5~8メートルほどと推定できます。これまで見つかった恐竜よりも明らかに大きい。この恐竜は、「ウルグベグサウルス」と命名され、新属新種の恐竜として発表されました。
恐竜研究はまず行動することが大切です。たとえ失敗しても、そこから新しいプロジェクトが生まれ、大発見につながるかもしれないからです。「恐竜研究はパズルのようだ」と田中氏は言います。うまく証拠を集めていくと、ピタリと合わさる瞬間がある。そんなときがたまらなく面白いのだそうです。証拠を集めて、推理し、新しい事実を導き出す。まるでミステリー小説のようですね。このような古生物学研究の過程を擬似的に体験させてくれるのも本書の魅力です。
まず、恐竜研究では恐竜の大きさを考えるとき、全長(長さ)だけではなく体重(重さ)に着目することが多く、例えば、キツネとアオダイショウ(ヘビ)の大きさを比べたとき、長さを基準にするとアオダイショウのほうが大きく、重さを基準にするとキツネのほうが大きくなります。このように、異なるグループに属する動物を比較するときには、長さだと混乱するので、重さを基準にするのだそうです。
では、恐竜の重さはどうやって測るのでしょうか。もちろん、体重計に乗ってもらうわけにはいきません。どうするのかというと、二の腕の骨(上腕骨)と太ももの骨(大腿骨)の太さから推定するのが一般的だといいます。
さて、世界最大の恐竜は何でしょうか。現在のところ、竜脚類というグループに属し、推定全長約40メートル、体重約95トンのアルゼンチノサウルスが最大だと考えられています(ちなみに、有名なティラノサウルスは約9トン)。ほかの竜脚類では、パタゴティタン約69トン、ドレッドノータス約59トン、ブラキオサウルス約57トン、ルーヤンゴサウルス約54トンと紹介されています。
ただし、アルゼンチノサウルスの「95トン」はあくまでも参考数値。上腕骨が見つかっていないため、大腿骨の大きさから推定して算出された数字だからです。しかも、その大腿骨もアルゼンチノサウルス「だろうと」考えられる標本です。そのため、「最大の恐竜」は「おそらくアルゼンチノサウルス」という答えになります。
「大きさ」が扱われる第2章では、恐竜の大きさを推定する方法や、恐竜が巨大化する理由と利点の考察が示されています。また、エネルギッシュな中国人研究者ジュンチャン・ルー博士との研究調査記録も面白く読めます。
他にも本書ではさまざまな観点からナンバーワン恐竜を決定していきます。結局のところ、「最強の恐竜」はなんでしょうか? その答えは、ぜひ本書を読んで、ご自身で確かめてみてください。
「いちばんつよいきょうりゅうはなんですか?」
NHKラジオ「子ども電話科学相談」は子どもたちが抱える科学に関する疑問や興味を直接専門家に質問できる教育番組です。番組は生放送の一発勝負。子どもの純粋な好奇心から放たれる超難問に、回答者の恐竜博士たちにも緊張が走ります。さて、どう答えたものか。
「体の大きなスーパーサウルスはどうかな?」
「…………はい」
「それとも、マプサウルスはどう? 群れで戦う、とか」
「…………はい」
いくつか提案してみても、声色から納得していないことがはっきりわかります。それどころか、難問に苦戦する先生たちに7歳の子が気を使っている。番組では最終的にスーパーサウルスがいいということになったものの、なんともすっきりしない終わり方になってしまいました。
世界をかける若手研究者、「最強の恐竜」を問う
番組が終わってから、恐竜の先生はもう一度考えました。「一番強い恐竜ってなんだろう?」
番組では一応の答えを出してみたものの、改めて考えるとわからなくなってきます。一番大きな恐竜が一番強いのか? それとも噛む力が強い恐竜だろうか? 一番頭が良い恐竜ってこともあるかもしれない。何をもって「最強の恐竜」とするのか、そこからしっかり考えないといけないのでは。
今回ご紹介する『最強の恐竜』(田中康平著、新潮新書)は、子どもの素朴な疑問に対し、新進気鋭の恐竜学者が本気で答えた恐竜研究ドキュメントです。最新の研究成果をもとに、さまざまな観点から恐竜の強さを分析し、最後に「最強の恐竜は◯◯である」とナンバーワンを結論づけています。その過程で、恐竜を研究するとは実際にはどのようなことなのかがわかるような記述になっており、先述のとおり恐竜研究のドキュメントとしても楽しめる一冊です。
著者の田中康平氏は、1985年名古屋市生まれの若手研究者です。専門は恐竜の繁殖行動や子育ての研究で、カナダのカルガリー大学で博士号を取得後、現在は筑波大学生命環境系助教として活躍しています。2024年現在、NHKの『子ども科学電話相談』の回答者も務めており、他の著書には『恐竜学者は止まらない! 読み解け、卵化石ミステリー』(創元社)があります。
化石を求めてウズベキスタンへ――恐竜学者の日常
ある日、田中氏はウズベキスタン出身の留学生から「恐竜化石を見つけました」と情報提供を受けます。確かに写真にうつる地層の中には骨のように見えるものが。もしかすると重要な発見になるかも!? それから間もなく、ウズベキスタンの地に降り立ち、調査を始める田中氏。留学生に案内してもらい、現場に行って調べてみたところ、実際はただの木の幹でした。残念。目当ての化石が空振りに終わってしまいましたが、恐竜研究者は転んでもただでは起きません。せっかくウズベキスタンに来たので、首都タシケントの地質博物館に立ち寄り、恐竜化石の展示を見ていくことに。すると、ひときわ大きな上顎の化石が目に止まりました。ナゾの肉食恐竜の巨大化石…もしかして新種かも。
日本に帰国してから、田中氏は分析を開始します。骨の特徴をコンピュータで解析した結果、カルカロドントサウルス類というグループに属する可能性が高いとわかりました。
早速、国立科学博物館に収蔵されている近縁種の頭骨レプリカ標本を調べていきます。上顎骨と頭骨全体の長さを測っていき、すでにわかっている全長データを使って、両者の相関関係を求めます。統計分析の結果、上顎骨の長さと全長には高い相関があると判明しました。得られた数式にウズベキスタンの標本を当てはめてみると、全長7.5~8メートルほどと推定できます。これまで見つかった恐竜よりも明らかに大きい。この恐竜は、「ウルグベグサウルス」と命名され、新属新種の恐竜として発表されました。
恐竜研究はまず行動することが大切です。たとえ失敗しても、そこから新しいプロジェクトが生まれ、大発見につながるかもしれないからです。「恐竜研究はパズルのようだ」と田中氏は言います。うまく証拠を集めていくと、ピタリと合わさる瞬間がある。そんなときがたまらなく面白いのだそうです。証拠を集めて、推理し、新しい事実を導き出す。まるでミステリー小説のようですね。このような古生物学研究の過程を擬似的に体験させてくれるのも本書の魅力です。
「最強の恐竜」大きさ部門――世界最大の恐竜は何だ!?
また本書では、「大きさ」「足の速さ」「噛む力」「頭の良さ」など部門ごとに「最強」の恐竜を考察していきます。ここでは大きさ部門についてご紹介しましょう。まず、恐竜研究では恐竜の大きさを考えるとき、全長(長さ)だけではなく体重(重さ)に着目することが多く、例えば、キツネとアオダイショウ(ヘビ)の大きさを比べたとき、長さを基準にするとアオダイショウのほうが大きく、重さを基準にするとキツネのほうが大きくなります。このように、異なるグループに属する動物を比較するときには、長さだと混乱するので、重さを基準にするのだそうです。
では、恐竜の重さはどうやって測るのでしょうか。もちろん、体重計に乗ってもらうわけにはいきません。どうするのかというと、二の腕の骨(上腕骨)と太ももの骨(大腿骨)の太さから推定するのが一般的だといいます。
さて、世界最大の恐竜は何でしょうか。現在のところ、竜脚類というグループに属し、推定全長約40メートル、体重約95トンのアルゼンチノサウルスが最大だと考えられています(ちなみに、有名なティラノサウルスは約9トン)。ほかの竜脚類では、パタゴティタン約69トン、ドレッドノータス約59トン、ブラキオサウルス約57トン、ルーヤンゴサウルス約54トンと紹介されています。
ただし、アルゼンチノサウルスの「95トン」はあくまでも参考数値。上腕骨が見つかっていないため、大腿骨の大きさから推定して算出された数字だからです。しかも、その大腿骨もアルゼンチノサウルス「だろうと」考えられる標本です。そのため、「最大の恐竜」は「おそらくアルゼンチノサウルス」という答えになります。
「大きさ」が扱われる第2章では、恐竜の大きさを推定する方法や、恐竜が巨大化する理由と利点の考察が示されています。また、エネルギッシュな中国人研究者ジュンチャン・ルー博士との研究調査記録も面白く読めます。
他にも本書ではさまざまな観点からナンバーワン恐竜を決定していきます。結局のところ、「最強の恐竜」はなんでしょうか? その答えは、ぜひ本書を読んで、ご自身で確かめてみてください。
<参考文献>
『最強の恐竜』(田中康平著、新潮新書)
https://www.shinchosha.co.jp/book/611027/
<参考サイト>
筑波大学 生命環境学群 生命地球科学研究群 生命環境系(WEBサイト)
https://www.life.tsukuba.ac.jp/
筑波大学 生命環境学群・生命地球科学研究群・生命環境系【公式】ツイッター(現X)
https://twitter.com/u_tsukuba_life
『最強の恐竜』(田中康平著、新潮新書)
https://www.shinchosha.co.jp/book/611027/
<参考サイト>
筑波大学 生命環境学群 生命地球科学研究群 生命環境系(WEBサイト)
https://www.life.tsukuba.ac.jp/
筑波大学 生命環境学群・生命地球科学研究群・生命環境系【公式】ツイッター(現X)
https://twitter.com/u_tsukuba_life
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