テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2025.08.21

言い間違いが定着した日本語たち

 言葉の中には誤用されていくうちに定着し、その意味が変化したものがたくさんあります。日常生活の中においては、それとして通じれば大きな問題にはならないかもしれません。一方で、教育の現場や報道の現場など、その時代における一定の正しさに基づいて発信しなければならない分野では誤用が問題となることもあります。では、現在ではどのような言葉で誤用が広がっているのでしょうか。すでに誤用が定着しているように感じる言葉も含めて、その一部を取り出してみましょう。

誤用されがちな言葉一覧

 以下、左側が「本来の意味」、右側が「現在、比較的多く使われている意味(誤用)」です。

「御の字」 ありがたい とりあえず納得する
「姑息」 一時しのぎ 卑怯な
「さわり」 話の要点 話の最初の部分
「潮時」 ちょうどいい時期 物事が終わる時
「なし崩し」 少しずつかたづけていくこと なかったことにすること
「破天荒」 誰もなし得なかったことをすること 豪快な様子
「役不足」 本人の力量に対して役目が軽すぎること 本人の力量に対して役目が重すぎること
「確信犯」 本人の政治的・宗教的に正しいと信じることに基づく犯罪行為 悪いと知っていて行われる犯罪行為
「憮然」 失望してぼんやりしている様子 腹を立てている様子
「おもむろに(徐に)」 ゆっくりと すばやく
「ぞっとしない」 おもしろくない 恐ろしくない
「砂をかむよう」 おもしろみがない 悔しくてたまらない
「割愛する」 惜しいと思いながらもやむを得ず手放す 不要なものを省略する
「奇特な人」 特に優れている人 奇抜な人
「失笑する」 笑いをこらえきれずに吹き出す あきれて笑う
「にやける」 なよなよとしている うすら笑いを浮かべる
「穿った見方」 本質を捉えた見方 疑ってかかるような見方
「気が置けない相手」 気配りや遠慮をしなくてよい相手 気配りや遠慮をしなくてはならない相手
「琴線に触れる」 感動をあたえること 怒りを買うこと
「敷居が高い」 相手に不義理をして行きにくい 高級(上品)過ぎて入りにくい
「檄(げき)を飛ばす」 (文書で)人々を呼び集めたり同意を促したりすること 激励すること
「流れに掉(さお)さす」 邪魔をする うまくいくようにする
「情けは人ためならず」 親切な行いがいつかは自分に戻ってくる 親切はその人のためにならない
「まんじりともせず」 眠らずに じっと動かずに
「やぶさかではない」 よろこんでする 仕方なくする

誤用は間違いか、それとも進化か

 探せばもっとあるでしょう。ではこういった言葉はどのようにして変化するのでしょうか。たとえば明治大学文学部・小野正弘教授は、大学のウェブサイトで「気の毒」という言葉を挙げてその意味の変化を紹介しています。これによると「気の毒」には「気の薬(きのくすり)」という反対語があり、こちらは自分にとって「気分が良くなるもの」について使われていたそうです。「気の毒」「気の薬」は自分にとって「毒か薬か」という基準で使われていたわけですが、次第に毒のような状況にある人のことを指して「気の毒」と言うようになりました。

 つまり、「わがこと」と「ひとごと」のどちらかが前に出てどちらかが後ろに下がる意味変化が起こっているとのこと。このことを「前景化」「後景化」と読んで分類するそうです。なぜそうなったのか、という点については研究中とのことですが、なにか現代にそう変化する社会的背景や心理的背景があるのかもしれません。

 こういった誤用によって意味が揺らぎ、コミュニケーションが円滑にいかない場面もあるかもしれません。ただし多くの場合、その言葉が使われる文脈から判断したり、不明な点は相手に確認したりすることで私たちは情報を共有可能なのではないでしょうか。大事なことは、正しさに依ることよりも、お互いに決めつけず、コミュニケーションをとりながら意味を擦り合わせていくことなのかもしれません。

<参考サイト>
誤用?慣用?「グレーな」日本語との付き合い方|川村インターナショナル
https://www.k-intl.co.jp/blog/B_220713A
ライターなら絶対に知っておくべき、誤用されやすい日本語16選!例文と共に紹介|株式会社takeroot
https://takeroot.co.jp/2020/06/06/wrong/
「カッコよすぎて無理!?」 いま、日本語研究者が気になる言葉とは|Meiji.net(明治大学)
https://www.meiji.net/feature/202310_01
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性

トランプ大統領は同盟国の役割を軽視し、むしろ「もっと使うべき手段だ」と考えているようである。そのようななかで、ヨーロッパ諸国も大きく軍事費を増やし、「負担のシフト」ともいうべき事態が起きている。そのなかでアジア...
収録日:2025/06/23
追加日:2025/08/21
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
2

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機

「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機

混迷を極める現代社会にあって、「学び」の意義はどこにあるのだろうか。次世代にどのような望みをわれわれが与えることができるのか。社会全体の運営を、いかに正しい知識と方針で進めていけるのか。一人ひとりの人生において...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/13
納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
3

不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント

不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント

定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」

「人生100年時代」といわれている現代において、定年後の人生に不安を抱く人は少なくないだろう。雇用延長で定年を延ばす人は多いが、その後の生活上の中心になるものを探しておくことが重要になってくる。時間的にも精神的にも...
収録日:2021/08/25
追加日:2021/09/28
楠木新
人事・キャリアコンサルタント
4

健康経営×DEIの効用――経営理念が充実すると業績がよくなる

健康経営×DEIの効用――経営理念が充実すると業績がよくなる

DEIの重要性と企業経営(3)健康経営でDEIを推進する

どのようにすればDEIを実現していけるのか。一つのヒントとなるのが「健康経営」である。はたして健康経営を目指している企業にとって、DEIの視点を取り入れることが企業利益につながるのか。また、従業員のウェルビーイングと...
収録日:2025/05/22
追加日:2025/08/22
山本勲
慶應義塾大学商学部教授
5

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念

今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/08/18
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家