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DATE/ 2025.08.21

「よろしくお願いします」のホントの意味

当たり前のように使っているけど…

「よろしくお願いします」といえば、あらゆるメールや会話の締めくくりに登場するお決まりのフレーズですよね。丁寧さを演出できる、便利で万能な言葉です。しかしよく考えると、正確な意味や使い方がけっこう曖昧な言葉ともいえるのではないでしょうか。そこで今回は、意外とわかりづらい「よろしくお願いします」の適切な取り扱い方法をご紹介します。

 まず気になるのが表記の問題です。一般的には「よろしく」とひらがなで書くことが多いですが、「宜しく」と漢字で書かれることもありますよね。漢字があるなら漢字で書いたほうが丁寧なようにも思えますが……実は、ひらがなで書くほうが適切といえます。

 その理由は、文化庁が定める「常用漢字表」で「宜」の文字に「よろしく」という読み方が入っていないから。このため、公用文やビジネス文書ではひらがなで表記するほうが基本に忠実なのです。「宜」を「よろしく」と読むのは、漢文の書き下し文に由来します。「よろしく〇〇べし」と読む再読文字(2回読むことで意味をなす文字)で、「〇〇するのがよい」という意味になります。

 そして、この「宜」こそが「よろしく」の語源なのです。

「よろしく」の語源とは?

「宜」は「よろしいこと」つまり、「ふさわしい」とか「ちょうどよい」状態を意味する漢字です。「こうあるべき」というような強い気持ちではなく、「こうするといいよね」とか「こうするのがおすすめ」と推奨するくらいの感覚を表します。このため、「よろしくお願いします」の直訳は「よいように取り計らってください」とか「うまくやってください」となります。

 そして中国から渡ってきた「宜」が、日本語の「よろしく」として定着すると、相手に裁量をゆだねる“文脈依存”の意味も含まれるようになりました。文脈依存とはたとえば、初対面の人に対する「これからの関係をうまく築けるよう、配慮をいただきたいです」とか、依頼をするときの「あなたの力添えに期待しています」とか、感謝を示すときの「あなたのおかげです、これからも協力してください」というような、場面ごとにニュアンスが異なる心情を相手の判断に任せる伝達方法です。

 自分から直接的に断言せず、婉曲表現で相手の理解に任せる――このような文脈依存の考え方からは、日本語がもともと持っている“曖昧さの美徳”が伝わってきますよね。

「よろしくお願いします」を正しく使うには

「よろしくお願いします」とだけ言っても、もちろん失礼にはなりません。しかし、相手の判断に任せる言葉だからこそ、自分から意図や真意も加えると大きな効果を発揮する言葉でもあります。

 たとえば、ビジネスの場で信頼している部下に伝えるなら、「よろしくお願いします」の前に「あなたの経験を活かしてもらえたら助かります」と加えておけば、信頼している気持ちがいっそう伝わりますよね。もしかしたらその部下は、そのとき初めて厚く信頼されていることに気づくかもしれません。「よろしくお願いします」に意図や真意を加えることで、人間関係を円滑にすることも期待できるといえるでしょう。

 また、「どうぞ」や「何卒」を先に置いたり、「お願いいたします」とか「お願い申し上げます」と末尾をアレンジすることで、より丁寧な印象を与えられます。上司や目上の人に言うときに使い分けてみてください。

 「何をどうしてほしいのか」とか「何にどのような期待をしているのか」をはっきり伝える言葉は、思っている以上に強い印象を残せるものです。単なる形式的な挨拶にも、少しの工夫で相手への信頼・期待・敬意などを込められます。どんな場面でも使う言葉だからこそ、ひとつひとつの「よろしくお願いします」にそれぞれの気持ちを込めてみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・「よろしくお願いします」ちゃんと使えてる? 正しい使い方や言い換え表現・類語などまとめ|Oggi 
https://oggi.jp/6403158
・「よろしく」の意味、考えたことはありますか? スムーズなコミュニケーションのために知っておきたい2つの役割|さんたつ 
https://san-tatsu.jp/articles/172129/
・「よろしく」と「宜しく」は使い分けたほうがいい?あなたの疑問を解消します!|Precious 
https://precious.jp/articles/-/36036
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