●経済の力を感じさせるアメリカ
非常に大雑把に言いますと、基本的にはこれから先進国は着実にいい方向にいくだろうと思われます。それに対して、新興国には非常に不安があるということを申し上げたいのです。僕は、アメリカはかなりいいだろうと思っています。アメリカの特徴は、もう政府ががたがたなのです。レームダック状態に近いような政権の中でいろいろな問題が起こるのですが、ただ、民間が非常に強いものですから、そういう政権のことなどとは関係なく経済は伸びていくだろうと思われます。
特にシェールガスで製造業が戻ってきたということや、それからもう完全にリーマンショック以降の調整が終わって、不動産とか雇用にもやはり跳ね返ってくるということで、今後アメリカが多分世界の経済を引っ張っていくだろうと思います。
●安定感のある欧州
ヨーロッパは、多分当分はまだ実体経済そのものは厳しいのですが、ただ、ある種非常に安定感があるのです。例えば、2012年の初めに30パーセントまで上がったギリシャの十年物の国債金利は7パーセントですし。あるいは、2012年に7パーセントだったスペインやイタリアの金利も、今3パーセント台です。また、2012年の初めに1ユーロ100円を切ったところまでユーロ安にきたのですが、もう今1ユーロ140円を超えています。
明らかに欧州は落ち着いているのです。それは、ドラギ総裁が無制限にイタリア、ギリシャの国債を買ってもかまわないと発言したということ。そして、やっていることがマーケットを落ち着かせているということです。
その間に、ギリシャの失業率が28パーセント、スペインも25パーセント、イタリアも10何パーセントと、非常に悪いのですが、悪い中で何が起きたかと言うと、ギリシャやイタリア、スペインの賃金や物価がどんどん下がってきている。一方で、非常に好調だと言われているドイツにはいろいろな資金があるものですから、不動産価格だとか賃金が上がってきているわけです。ですから、逆に言うと、これが今言っている欧州の、いわばもともとあった格差が縮まる傾向が出てくる。それだけ南の国の競争力を高めるような動きになっているのです。
さらにギリシャあたりは財政問題がもともと非常にひどかったのですが、この財政危機によって、もうやむを得ずいろいろな改革をしているのです。
ですから、欧州については、本当に経済そのものが世界を引っ張るような力強い成長にするには、まだ何年もかかるということなのでしょうが、ある意味で非常に安定感が出てきています。
しかも、しばらくこの厳しい状況の中に南の国がいることが、結果的に欧州のいわば拡大につながるという意味で、そこも安心して見ていいと思います。
●新興国の「成長イメージ」の実態
問題は新興国です。よく学生に言うのですが、「BRICs」(ブリクス)いう言葉があって、
これは2001年、ゴールドマンサックスのオニールという人が言った言葉らしいのです。オニールさんから直接聞いたのですが、9.11でテロが起きたあと、世界経済に非常に暗い雰囲気がただよったときに、「それではいかん」ということで、「BRICsでいくか」「これから新興国の時代だ」ということになりました。
結果的には非常に成功したキャッチフレーズで、新興国の世界全体のGDPに占めるシェアというのは、2000年には約20パーセントだったのが、2007年には34パーセントまで上がっており、急速に伸びているわけです。
なので、なんとなくもう世界中に、新興国というのはこれからも成長していくというイメージができてしまった。
ところが、シャーマという、これはモルガンスタンレーの有名なアナリストだと思いますが、彼が言っていますけれども、たしかに20パーセントから34パーセントに2000年から2007年に上がったが、実は1985年から見ると、1985年は24パーセントだった。
つまり、われわれはどうしても過去10年に起こったことに引っ張られてしまう傾向があるものですから、「新興国というのは成長する存在だ」と信じているのですが、実は、過去50年に引き伸ばしてみると、過去10年以外は「新興国は成長しない存在だ」ということです。
もちろん、個別の国はぴゅっと成長するのです。しかし、70年代に急速に成長したブラジルが、80年代にぽしゃってしまうとか、あるいは、90年代前半に急速に成長したタイが97年以降ぽしゃってしまうなどという話もあります。だから、新興国全体でならすと、実はあまり成長していないのだと。過去10年は例外だということになります。
●例外的10年を作った先進国の過剰マネーから一転、引き締めのテーパリングへ
では、なぜその10年が例外だったのかというと、いろいろな理由はありますが、その一つの大きな理由というのが、アメリカあるいは日本...