●難民はシリア人だけではない
皆さん、こんにちは。
前回、前々回に引き続き、現在の中東で起こっている難民問題について、三度触れてみたいと思います。ヨーロッパでは、第二次世界大戦以来最大の難民危機、最大の難民問題が発生したと伝えられています。しかしながら、この難民危機というのはまだ始まったばかりだというところに、深刻さがあります。
トルコにはまず200万のシリア難民が殺到し、レバノンには100万人、さらにそこを越えて欧州に入ってくる者たちの全てが、シリア人だけではありません。アフガン人、ひいてはリビアをはじめとするアフリカの人びとも、地中海を越えて入ってきます。こうした人びとは、自分たちの母国、祖国において、紛争で疲弊し尽くした人びとです。
EUの中においては、難民問題をめぐる論争が活発になりつつありますが、いくらヨーロッパ、あるいはEUが寛容であっても、国際社会がこの問題に全体として取り組まなければ限度があるというのが、正直なところだと思います。数百万のシリア人が難民となり、これからもなるであろうという状況の中で、シリアを中心に、イスラム国(IS)のような過激派集団が国境を越えてシリアに潜入し、シリア、イラクを軸にして拡大し続けるというのは、誠に不幸なことです。
●シリアの難民とIS戦士の入れ替わり現象
ひとたび生命を賭して海を渡ってヨーロッパに入国した難民たち、特にシリア人たちは、祖国に帰国することはなかなかに難しいものと思われます。反対に、数千人もの外国人がわざわざシリアに過激派としてやってきて、そこで犯罪、テロ、暴力、あるいは戦争に加担しているような人びとが、シリアから出て自分の祖国に帰国するということは極めて少ないかと思われます。
これは誠に皮肉な現象です。シリア人は、父祖伝来の土地、国を捨てざるを得ず、捨てることを強いられているのに対して、代わりにアフガン人やチェチェン人といった過激派の人びとのみならず、イギリス、フランス等々のヨーロッパの若者たちが、イスラム国(IS)の戦士、兵士として、シリアに代わって登場してくるというのは、誠に不可思議、そして奇怪な現象、逆説だといわなければなりません。
●難民問題は各国協同で取り組むべき大事な問い
難民と移住者は、仕事を見つけて、そこが安全だと感じられる限り、自分を受け入れてくれた国、これをホスト国と呼びますが、この受け入れ国に滞在することは間違いありません。これは、彼らがなぜドイツに出かけるのかという理由の説明になっています。それは、ドイツが経済で潤い、さらに労働力を必要としているからです。
トルコの海岸の波打ち際に横たわったクルディ少年の写真は、世界に突如としてシリア人難民の行動に対して注意と関心を向けさせるきっかけになりました。しかしながら、このシリア危機、難民危機に対する共感や、あるいは、それとの連帯というものは、他のさまざまな人道的危機のときと同じように、次第に小さくなる、関心が弱まっていくことが予想されます。それゆえに、シリア難民の問題は、危機として国際世論の方で全体として協同的に調整し、そして解決していく方向で努力することが必要かと思われます。彼らの衣料品やさまざまな生活の便宜、そうしたサービスなどのファンド、財源をどうするか、あるいは彼らの避難先をドイツやスウェーデンだけに投げていいのか。各国はもう少しそれぞれ協力するべきではないか。こうしたことは、EUだけではなく、他ならぬ日本などにも向けられる、大変大事な問いではないかと思われます。
●シリアの紛争長期化の原因はイランと関係がある
さて、シリアにかなり関与していながら、一人のシリア難民も明示的には受け入れていないイスラムの国が一つあります。それはイラン・イスラム共和国であります。30万ほどの人口を持つにすぎないアイスランドでさえ、「scores of」という表現が使われていますが、20~30人という数のシリア難民を受け入れている現実があります。一方、他ならぬシリアに隣接し、シリア紛争に介入して、その影響が広範かつ直接的な国であるイランが、難民を一人も受け入れてないというのは、誠にいぶかしく思われます。
それは、イランの支配体制が、シリアのアサド政権の犯罪的な行為、あるいは、アサド政権の非常に問題のある政治体制に最初から加担し、それを支援してきたという現実と無関係ではありません。もちろんシリアの悲運において、トルコからサウジアラビア、あるいは湾岸諸国、アメリカやEU諸国も、それぞれの程度やレベルに違いこそあれ責任がある国ですから、イランだけをなじることはできません。
しかし、そもそも今回のシリアの紛争がこれほど長期化し、アサド政権の延命を許して...