●財務的継続可能性と社会的インパクトを両立させる
日本財団社会的投資推進室の工藤と申します。今日は、私が取り組んでいる社会的インパクト投資をご紹介したいと思います。まず、社会的インパクト投資とは一体何かというのが、日本ではまだあまり知られていないと思うのですが、簡単に言えば、教育や福祉などの社会課題の解決を主眼に置いた投資行動を指します。
通常、投資とは、経済的なリターン、利益を追求していくものですが、社会的インパクト投資は、経済的なリターンと同時に、社会的な課題の解決、社会的インパクトを追求する投資行動だとご理解いただければと思います。
この資料では、横軸に財務的継続可能性、縦軸に社会的インパクトをとっていますが、一般的な投融資は、財務的な持続可能性は非常に高いけれど、社会的なインパクトを目的としているわけではありませんから、この象限に置かれます。一方で、寄付、慈善事業、税金の支出など、世の中の大きな流れとして投資の他にもう一つある「チャリティーの世界」は、社会的なインパクトは非常に高いけれど、財務的継続可能性は一般的には低いケースが多いと思います。
この二つを両立させようとしている、要するに社会的インパクトが高く、財務的にも継続可能な領域を開発していこうとしているのが、社会的インパクト投資なのです。
●社会的企業に投資するのが、社会的インパクト投資
丸く書いてあるのが、担い手、もしくは投資先です。一般的な投融資ならビジネスを行っている一般企業、寄付や慈善事業ならNPOやチャリティーに当たるものとして、社会的インパクト投資のマーケットには「社会的企業」と言われる存在があります。社会課題の解決を本業としながら、ビジネスとして持続可能なタイプの事業者です。こうした社会的企業がいま徐々に育ってきているのです。そうした社会的企業に投資するのが、社会的インパクト投資です。
社会的インパクト投資は、次のスライド「社会的投資スペクトラム」にあるとおり、非常に多様な取り組みとして発展しています。一番左に、お金の返ってこないタイプの支出、つまり寄付やチャリティーを置き、一番右に通常のビジネス投資を置くと、これほど多様なグラデーションがあるのです。通常の投融資とチャリティーの間にあるブルーの部分、社会的インパクトを優先しながら、経済的な持続可能性を高めていく中央部分に、社会的インパクト投資の領域が育ってきているとご理解ください。
実際の事例を少しお話ししますと、例えば、ニューヨークには「アキュメン・ファンド」があります。このファンドは、途上国で課題解決をしたり、貧困の問題を解決したりするビジネスに投融資する事業を行っています。その他には、低所得者向けの住宅を売っている会社や、よく知られているところではマイクロファイナンスへの投融資なども社会的企業です。
また、イギリスには「ブリッジズ・ ベンチャーズ」という有名なファンドがあります。非常にユニークなファンドで、所得水準が下から10パーセントの自治体だけに投融資をしています。年金基金や大学の運用資産から資金を調達して、あえて低所得地域に投融資していくのです。例えば、低所得地域でエクササイズジムを開発して、ジムのサービスをリーズナブルに提供し、そこに住む方々にもっと健康に意識を向けていただくことで、結果的に医療費や介護費などの社会的コストの削減を狙うといった活動を行っています。
●社会的インパクト投資タスクフォースが立ち上がった
日本でもそうなのですが、特に欧米では、もう行政だけでは社会課題を解決していけないという認識があり、政府が積極的に社会的インパクト投資を後押ししている潮流があります。
この資料にあるとおり、2013年に「社会的インパクト投資タスクフォース」が立ち上がりました。当時、G8サミットの議長国であったイギリスのデーヴィッド・キャメロン首相が立ち上げたタスクフォースです。キャメロン首相は、政府だけでは公共サービスを支えていけないという明確な立場を取り、社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)、財務的持続可能性を重視しながら、貧困や教育や福祉といった社会的課題の解決を担う人たちを積極的に応援してきました。この分野では非常にリーダーシップを発揮している方です。
そのキャメロン首相が立ち上げた社会的インパクト投資タスクフォースには、この分野の各国のリーダーたちが、政府サイドから1名、民間サイドから1名のペアで登録して、どうしたらこの取り組みを政策として応援していけるかをずっと議論してきました。事業の社会的インパクト評価をどのように進めるか、この分野にメインストリームの金融機関をどのように呼び込むかといったテーマ別の作業部会を設定し...