●成果主義で社会課題を解決するボンド
いま日本のこの分野でおそらく最も注目されているのが、「ソーシャル・インパクト・ボンド」と言われる新しい取り組みです。これは、2010年にイギリスでスタートしたまだ始まったばかりの取り組みですが、これを日本でも導入できないかということで、われわれも検討を続けているところです。このソーシャル・インパクト・ボンドについてご説明していきます。
ソーシャル・インパクト・ボンドとはどういう仕組みかというと、通常であれば行政が行う公共サービスの提供を、いったん民間投資家(資金提供者)の資金で実施します。それがうまくいって所定の成果が達成されれば、行政が少しのリターンをつけて民間の資金提供者にお金を返します。もし成果が達成されなければ、行政はお金を払わなくていい。こういう仕組みになっています。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)、もしくはPPP(パブリック・プライベート・ パートナーシップ)という官民連携のスキームは日本でも導入されていますが、そのもう少し発展したバージョンとご理解いただければよいかと思います。
通常、行政は活動費にお金をつけますので、民間に委託をしたり補助金を出したりするときも、「何をやるか」というアクティビティにお金をつけるのが一般的な助成金の世界ですが、ソーシャル・インパクト・ボンドでやろうとしていることは、何をやったかではなく、活動の成果がどう出たか、活動の結果として社会課題解決がどの程度達成されたかに対してお金を払おうという「成果連動支払い」がベースにあります。
●財政問題と社会課題を同時に解決したい
なぜイギリスでこうした動きが発展したかというと、やはり一番大きな背景としては、財政問題です。先ほど、デーヴィッド・キャメロン首相がこうした政策を後押ししていると申し上げましたが、またイギリスに限らず先進国はどこもそうですが、構造的な財政赤字で、ずっと政府の債務超過が続いていく。これは、先進国に関してはもう今後ずっとこういう傾向が続くわけです。そうなってくると、やはり政府だけではこの公共サービスを支えきれません。どうやってそこに民間のノウハウや資金や知見を導入していくかが、一番大きなテーマになっています。
もう一つ非常に重要な観点としては、どうやって財政支出を抑制しながら課題も解決できるかいう非常に難しい問題に直面しています。その中で一つの大きなポイントとなるのは、対症療法的なアプローチから予防的介入へどう軸足を移していけるかということがあります。医療や介護というものは、これまで基本的には医療や介護が必要になってから何らかの医療・介護サービスを提供して治療・介護していくというアプローチでしたが、今後は、いかに医療にかからなくて済むよう未然に防ぐことができるかということになっていくでしょう。
「健康寿命を延ばそう」と日本の政府も盛んに掲げていますが、まさにそういうアプローチをしていくことが重要で、そうなってくると、実は民間の方が得意なのではないかというのが、イギリスの期待しているところです。実際に必要になってしまった顕在化したニーズに対しては、やはりどうしても税金を使って対処していかなければなりません。医療、福祉を支えていくのはやはり国の責任です。ただ、それが発生しないように未然に防いでいくところに関しては、民間の企業やNPO、もしくは市民一人ひとりの努力でやっていけるところがあるではないかと。そこに対しては、民間の資金も活用していこうということで今、ソーシャル・インパクト・ボンドがスタートしています。
●すでに世界10カ国で40件以上の実績
仕組みについては先ほど申し上げたとおりですが、少し図を使って説明します。通常の行政サービスは、成果の有無にかかわらず、活動にかかった経費を支払います。これをソーシャル・インパクト・ボンドですると、実際にサービス提供を行う事業資金は、いったん民間の資金提供者が支払います。そして、そのサービス提供の結果を独立した評価機関がきちんと評価します。本当にそんな成果が出ているかを認定していくわけです。それをもって、行政が、目標達成や課題解決を確認し、あとから報酬を支払う形になります。
こういった取り組みが、実は世界でかなり広がっています。2010年にイギリスでスタートしてから、現在10カ国、40件以上になっています。分かりやすい事例をご紹介します。
●イギリスの再犯防止プロジェクトとコスト削減効果
最初にイギリスでスタートしたのは、刑務所に入っている受刑者の再犯防止プロジェクトでした。受刑者が刑務所で更生にあたる期間の収監コスト(1年あたり300万から400万円)は、当然ながら税金でまかな...