●AI、IoTなどはデマンドサイドの議論がより重要だ
経済や社会の変化を考えるときに、われわれ経済学者が重視するのは「サプライサイド」から考えるか、「デマンドサイド」から考えるかということです。別の言い方をすれば、供給側の視点から見るのか、需要側の視点から見るのか、ということです。もちろん両方が重要ですが、今、世の中を大きく変えようとしているAI、IoT、クラウドコンピューティングといった情報化の流れの中では、私はデマンドサイド、利用者視点の議論がより重要だろうと思っています。
どうしてかというと、現在の情報革命・技術革新を推進する企業群は、既存の縦割りのビジネス構造を壊し、横串でビジネスを行っていこうとしているからです。例えば、自動車業界はこれまでは一つの確固とした業界で、全体として自動車の質を上げて消費者に提供してきました。しかし、Uberに代表されるシェアリングビジネスや、GoogleやAppleが考えているビジネスは、自動車はあくまでもビークル(移動手段)で、モバイルデバイスとして見ており、トランスポーテーション(移動)サービスの中で自動車を捉え直そうとしています。こうなると、既存の自動車業界も、自動車という狭い分野だけでは考えていられないでしょう。高齢者あるいは若者はどのような移動を求めているのか。自動車は自分で所有するのか、シェアするのか。都市と地方で移動の考え方はどう違うのか。このように、移動という視点で自動車産業を見直せば、さまざまなビジネスモデルが新たに生まれてくるのです。つまり、利用者視点が各業界で求められているということです。
地図アプリも、これまではあくまでも地図という世界で完結していましたが、自動車ネットワークとどう関わるかを考えると、地図の意味が違ってきます。例えば、地図の上で渋滞情報やさまざまなサービスを提供することができるでしょう。移動という視点で、消費者を別のところに動かすためにはどういった仕組みがベストなのか、いわば“移動ノミクス”のといったようなことを、ゼロ地点から考えることが重要になるのです。
●消費者はどのような形で余暇を過ごしたいのか
他にもさまざまな世界に変化が広がっています。エンターテインメント業界では「ポケモンGO」が世界的に話題になっているようですが、これも基本的にはどういった技術が提供...