●日本は世界から取り残されているという現実
―― 皆さま、こんにちは。本日は猪瀬直樹先生に「カーボンニュートラル革命」についてお話を伺います。先生どうぞよろしくお願いします。
猪瀬 よろしくお願いします。
―― このたび先生は『カーボンニュートラル革命』という本をビジネス社さんから発刊されて、私も早速読ませていただきました。非常に印象深かったのは、日本人だと、例えば「日本の環境技術は世界に冠たる素晴らしいものがある」、「環境の進展度合いはとても進んでいる」という認識を持っていると思いますが、実は今の世界はガラリと変わってしまっているということです。その辺りを先生はどう考えていますか。
猪瀬 日本は環境技術先進国だと日本人は思っています。ところが、実は世界から取り残されているということを新しくデータを入れながら書きました。これはちょっと驚くべき状態です。これで日本は大丈夫なのかと私は思いました。
かつて日本には携帯電話を製造する優秀な家電メーカーがたくさんあって、海外にどんどん進出していくと思っていました。
それがガラケーです。しかし、ガラケーがまさにガラパゴスの携帯電話として取り残されていきます。そして、ガラケーに少し工夫してiモードにしました。トヨタがハイブリッド車をつくりましたが、これはガラケーに即していえば、iモードをつけただけです。これについては後で詳しく話します。
Appleがバーンと日本に来て、スマートフォンがバーッと普及しました。そうすると、もうガラケーもダメですし、そこにiモードを付けてももうダメです。それが、今の「カーボンニュートラル革命」という言葉の中のビジネスの世界でも起きているということです。
それをもう少し詳しく説明します。EV(Electric Vehicle、電気自動車)が中国でもヨーロッパでもどんどん新しい形で改良され、発明され、進んでいる状態です。もちろんアメリカには有名なテスラがあります。そうしたEVが世界的にものすごい勢いで普及し始めているときに、まだ日本は「ハイブリッドだ」と言っていました。最近でもそうです。今慌てて切り替えようとしていますが、完全に出遅れています。
日産のリーフは、「世界で初めてのEVの量産車」といわれて、2010年に大量生産を始めました。そのリーフが伸び悩んで、ずっと低迷しています。そういう中で、世界のEVの普及率はどんどん上がっています。日本だけ取り残されているということです。
この「カーボンニュートラル革命」という言葉ですが、ヨーロッパではカーボンニュートラル革命はもう当たり前のことだと思っています。先ほど最初に言ったように日本では、「環境技術が進んでいる」、「日本は環境先進国」だと錯覚していますが、しかし実際には自然再生エネルギーの普及率もヨーロッパやアメリカのほうが高いです。
アメリカは、トランプさんがパリ協定を離脱すると言っていましたが、それはトランプさんが一人で言っていただけです。バイデンさんになってそうではないとなりました。また、その頃トランプさんが言っていても、カリフォルニア州などいろいろなところでは、カーボンニュートラル革命がどんどん進んでいました。そういうことで、日本が世界から取り残されていることが今回よく分かりました。
●スモッグの中から立ち上がり、排気ガスを出さないEVに転換した中国
猪瀬 EVの話ですが、上の表を見ていただくと分かりやすいですね。この表を説明すると、EVの1番はテスラで、生産台数が約50万台です。トップ20社と書いてありますが、テスラが1番で、2番手はフォルクスワーゲンです。その後には中国企業がいくつかあります。そして、5番手にドイツのBMW、6番手にメルセデス・ベンツ、さらに、9番手にアウディです。もちろんドイツだけではなくて、8位にはスウェーデンのボルボがいて、これもどんどん進んでいます。ベスト20の中で日本は日産が14位、トヨタが17位です。最も自動車の先進国といわれる日本がベスト20の中で14位と17位です。これでは少し困ります。
なぜそうなっているのか少し説明します。今ドイツと中国が一番ですが、中国は2013年頃に北京で、曇っていて外が見えないくらいスモッグがすごくて、日本人の駐在員の人が奥さんや子どもを日本に帰らせると言っていました。ガスマスクみたいなものをしていましたが、今のコロナどころではない感じでした。
中国はいまだに石炭火力があり、われわれは中国を発展途上国だと思っていました。しかしそこから中国が猛ダッシュを始めて、電気自動車をどんどん普及させ始めました。EVの生産台数が急カーブして、今はドイツと中国がトップ争いをしています。しかも中国は48万円の安い電気自動車をつくりました。その会社が...
(猪瀬直樹著、ビジネス社)