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新産業を拓くには「利用者視点」が重要

サブスクリプション・ビジネスーデマンドサイドから考える

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
「AIやIoTなどを活用する際には、デマンドサイドから考えることがポイントになる」と、学習院大学国際社会科学部教授・伊藤元重氏は語る。それはいったいなぜか。今、ビジネスの世界にどのような変化が起こっているのか。経済産業省「新産業構造部会」の座長を務める伊藤氏が分析する。
時間:10:03
収録日:2016/08/25
追加日:2016/09/17
≪全文≫

●AI、IoTなどはデマンドサイドの議論がより重要だ


 経済や社会の変化を考えるときに、われわれ経済学者が重視するのは「サプライサイド」から考えるか、「デマンドサイド」から考えるかということです。別の言い方をすれば、供給側の視点から見るのか、需要側の視点から見るのか、ということです。もちろん両方が重要ですが、今、世の中を大きく変えようとしているAI、IoT、クラウドコンピューティングといった情報化の流れの中では、私はデマンドサイド、利用者視点の議論がより重要だろうと思っています。

 どうしてかというと、現在の情報革命・技術革新を推進する企業群は、既存の縦割りのビジネス構造を壊し、横串でビジネスを行っていこうとしているからです。例えば、自動車業界はこれまでは一つの確固とした業界で、全体として自動車の質を上げて消費者に提供してきました。しかし、Uberに代表されるシェアリングビジネスや、GoogleやAppleが考えているビジネスは、自動車はあくまでもビークル(移動手段)で、モバイルデバイスとして見ており、トランスポーテーション(移動)サービスの中で自動車を捉え直そうとしています。こうなると、既存の自動車業界も、自動車という狭い分野だけでは考えていられないでしょう。高齢者あるいは若者はどのような移動を求めているのか。自動車は自分で所有するのか、シェアするのか。都市と地方で移動の考え方はどう違うのか。このように、移動という視点で自動車産業を見直せば、さまざまなビジネスモデルが新たに生まれてくるのです。つまり、利用者視点が各業界で求められているということです。

 地図アプリも、これまではあくまでも地図という世界で完結していましたが、自動車ネットワークとどう関わるかを考えると、地図の意味が違ってきます。例えば、地図の上で渋滞情報やさまざまなサービスを提供することができるでしょう。移動という視点で、消費者を別のところに動かすためにはどういった仕組みがベストなのか、いわば“移動ノミクス”のといったようなことを、ゼロ地点から考えることが重要になるのです。


●消費者はどのような形で余暇を過ごしたいのか


 他にもさまざまな世界に変化が広がっています。エンターテインメント業界では「ポケモンGO」が世界的に話題になっているようですが、これも基本的にはどういった技術が提供できるかがポイントではなく、人々がどのようなエンターテインメントを求めているかという視点が重要で、そのためにどのような技術を組み合わせたら何ができるのかが中心になってきているのだと思います。

 これまでのエンターテイメントビジネスは、音楽業界、ゲームソフト業界、映像業界といった形で分かれていましたが、今はスマホという一つのモバイルデバイスを通して、これら全てが同時に提供できます。しかも、最近は定額で使い放題、聞き放題、見放題のサービスがどんどん出ています。最終的には、消費者がどのような形で余暇を過ごしたいのか、どういったエンターテインメントを求めているのか、それに対してどのような技術が提供できるのかをトータルに考え、組み合わせることが必要でしょう。

 AIやIoTなど、今話題になっている技術を活用する際には、このようにしてデマンドサイド、ユーザーサイドから何が可能か、どういった技術的なチャレンジが必要かを考えていくことがポイントになるのです。


●サブスクリプション・ビジネスとも深い関係がある


 このことは以前に10MTVでもお話ししたサブスクリプション・ビジネスとも深い関係があります。そのときにお話ししたのは、ものを売って使ってもらうビジネスではなく、ものを利用してもらう「利用サービス」を中心に価格体系や供給体系を考えるということでした。

 具体的な例をいくつか申し上げると、例えばタイヤメーカーは、これまで「タイヤを売る」ビジネスをしてきたわけですが、タイヤにさまざまなセンサーを付け、顧客とつながることで、タイヤを使ってもらうことに対するフィーを提供できるようになります。メインテナンスという付加価値をつけることで、ビジネスが広がるのです。これがサブスクリプション・ビジネスの典型的な例です。

 iPhoneのような携帯機器でも、最新機器を使いたい方には、新しい製品が出たらそのつど交換し、比較的高価格の利用料をとるサービスを提供すると同時に、安い料金で使いたい人には型落ちした機器を使っていただくサービスを構築することができます。つまり、スマートフォンを売るのではなく、スマートフォンを利用してもらう形の料金体系にすると、顧客の幅が広がるのです。それだけでなく、ネットワークでさまざまなソフトウェアやサービスをいつでも提供できる状況をつくれます。こうした価格体系が...
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