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悲惨極まるアレッポ、アサドこそ激化するシリア問題の火種

シリア・アレッポ情勢と三つの「限りなく嘘に近い神話」

山内昌之
東京大学名誉教授
概要・テキスト
シリア北部の中心都市アレッポの情勢は悲惨を極めている。忘れてならないのは、この地区を包囲したのは他ならぬシリアの政府軍、空爆を加えたのはアサド大統領を支援するロシアだということだ。「国家主権防衛のため」をうたうアサド大統領に正当性はあるのか。歴史学者で東京大学名誉教授の山内昌之氏に解説していただく。
時間:11:26
収録日:2016/11/02
追加日:2016/11/22
カテゴリー:
≪全文≫

●政府軍の包囲とロシアの空爆に呻吟するアレッポ


 皆さん、こんにちは。シリア情勢は、アサド大統領のシリア政府軍によるアレッポ市東部をめぐる包囲戦、政府軍とそれを支援するロシアの空爆によって、ますます緊迫した様相を呈しています。

 9月30日の世界保健機関(WHO)の発表によれば、アレッポ市街に対する政府軍の攻撃とロシア軍の空爆によって、その1週間で子ども100人を含む338人が死亡しました。その上、全体として30人に満たない医師で運営する6つの病院だけで数十万人の患者を治療しているという惨状が伝えられています。

 特に東アレッポの各地区では、10月11日正午から、過去1週間で一番激しい空爆が再開されています。9月23日から10月8日にかけて、東アレッポの包囲下で呻吟する住民は27万人に上り、この期間の死者総数は406人(子ども114人、女性56人以上)になっており、負傷者は1384人(子ども279人、女性110人以上)という、言葉に尽くせない悲惨さを極めています。


●アサドの主張にみる三つの「限りなく嘘に近い神話」


 これまでシリアのアサド政権は、アレッポに対する軍事作戦を国家主権の防衛という観点から正当化してきました。

 アサド大統領は7月13日、アメリカのNBCテレビに対して、「歴史は、私すなわちアサドこそ国を守り、国家主権を救った人間だと評価するだろう」と論じました。また、10月6日にはデンマークのテレビ2チャンネルに対して、「自分たちは独立した主権国家であり、自分たちの問題に取り組む権利がある」と毎回繰り返している言説を、改めて確認していました。

 しかし、中東テロ問題の専門家であるアリ・イブラヒム氏は、この発言に対して極めて簡潔に整理を行っています。そこには、私の言葉で言うと「限りなく嘘に近い三つの神話」が利用されているのです。


●シリアの「内戦」はインターロッキング


 その第一は、シリアが内戦にあるという歴史的事実をアサド大統領が正確に直視していないことです。シリアの政治状況は、政府と反政府間の嵌合(鍵をかけあった結果抜き差しならなくなり、鍵がほどけなくなってしまった)状態、英語でいう「inter-locking」の状況を帯びています。

 大きく分ければ、第一はシリアのアサド政府とイランとロシア、第二は反政府、アメリカ、トルコ、アラブのスンナ派系湾岸諸国といった組み合わせが考えられます。しか...
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