●日本人の留学先の変化
日本の英語教育は面白くて、文法をきちんと教えています。だから、皆ある程度は読む力があります。しかし、語彙が足りません。そして英語を聞く耳が全然できていないのです。それから、聞いて英語が出てくるまでの回路もうまくできていないと言います。しかし、これは単純なトレーニングで改善するので、1年も(英語の環境に)漬かれば、普通に話せるようになります。
またよく言われることですが、日本の若い人が今、留学しない(人が多い)。しかし、見ていると、どうもそれはアメリカをはじめとする先進国に留学しないということのようです。一種の自分探しのような、発展途上国への留学や遊学は増えているのです。
そこからいっても、GRIPSにいるのは必ずしも先進国の学生だけではなく、圧倒的多数が発展途上国のエリートです。だから、そうした日本人の需要にも応えられるのではないかと思っています。
しかし、なかなか日本の社会は難しい。全体として、日本の社会はだんだんと年を取ってきています。やはり日本の社会は、保守的だと思います。
●生産性向上には給与体系の変革が必要
私には息子が2人いて、2人とも専門はコンピューターサイエンスです。上の(息子の)方はアメリカに住んでいて自分の会社を経営していますが、彼と話すと、やはり優秀なコンピューターサイエンティストを出すことは、日本の企業では無理だと言います。なぜかというと、理由は極めて単純で、給料が(アメリカの)半分以下だからです。
カリフォルニアだったら、少し名前が知られているぐらいの人ならば最低でも年収で20万ドルはあります。日本で普通のエンジニアの給料だったら、700万円か800万円でしょう。そんな給料だったら、スタートアップでも行かないと彼は言います。そのあたりの給与体系から変えていかないといけないのではないかと思います。
GRIPSでは、私が完全に人事をやりましたし、アジア経済研究所でも人事だけは私がやっていました。組織が大きいと、改革がなかなか大変なのはよく分かっていますが、やはり人事はトップがやらなければ駄目だと思います。
●人事のマネジメントがGRIPSを強くした
ただ私自身は、人事に対して「慎重にも慎重に」というタイプです。相手は生の人間ですから、私が「どうかな?」と迷った時には採らないという方針がありました。特に最近の日本の大学は、テニュアトラック制度があります。5~6年の試用期間をおいて、その間に事前に合意した条件を満たさなければクビを切るという制度です。これが一般的になりつつあるのですが、やはり自分で組織をきちんとマネジメントした経験がない人ほど、この制度を気楽に使えばいいと思っています。しかしご承知の通り、人のクビを切るのはやはり嫌なものなのです。
だから私がいつもお願いしているのは、テニュアトラックで人を採る時でも、こちらとしては「これで大丈夫だ」という人を採ることです。「この人とはこれからずっと同僚としてやっていける」という確信がかなりある人でないと、テニュアトラックでも採らない。これが私の方針です。だからほとんど全部、テニュア(終身雇用)をあげています。
例外的に、私が学長になる前に採用した人が2人ほどテニュアを取れなかったのですが、少し違う方針で採った人なので、しょうがないことです。私になってから採った人には、全員テニュアを差し上げています。その分、皆さんが期待するほどには採れません。だから、どうしても欠員が生じますが、それはしょうがないのです。
●「親の言うことは聞くな」というアドバイス
よく社会的には、若い人が内向き傾向になっているなどといいますが、正直にいって、それは「良い子」ほどそうではないかと私は思っています。どういうことかというと、要するに親の言うことを正直に聞いていると、そうなってしまうということです。
私は、自分の出身高校に年に1回、だいたい6月頃に講演に行っています。高校3年生が、そろそろどこに行くかという自分の進路を真剣に考える時期です。私が言うのはいつも同じです。「親の言うことは聞くな。あなた方の人生はあなた方のものなので、自分で決めろ」と言います。それを言いたいがために講演をします。
私は親の言うことを聞いていると、特に進学校だと半分ぐらい医者になってしまいます。それは日本全体で見ると、「人的資本の壮大な無駄」であると思っています。
ですから、そこは親の考え方次第ではないでしょうか。どうしても親は、子どもが少しでも苦労せずに、安全に安心に生活してほしいと考えるでしょう。親としてはそうなのですが、その結果、全体として内向きの方向に行ってしまっている気がします。
一方で、自分探しで発展途上国に行っている人は、いく...