●アジアに浸透したGRIPSのブランド
ケネディスクールというのは、外交・安全保障でいうところのCSIS(戦略国際問題研究所)でしょう。こういうところは、まだ背中も見えないぐらい先を走っているので、偉そうなことはなかなか言えませんが、それでもある程度、アジアでのGRIPSはブランドになり始めたかなという気はします。
GRIPSには外国から非常に優秀な学生が来ているのですが、そういう人たちと一緒に学ぼう、英語で学ぼうという日本人が非常に少ないことが今、最大の課題です。
●次なる課題は日本人学生の増加
このあたりの事情は、日本の大学制度とも関係があります。日本の場合、さまざまな学部のある総合大学の人たちはその大学の大学院に行くことが多いのですが、アメリカではそういうことはほとんどありません。例えば、コーネル大学の学部生は、ある専門の勉強をするために大学院に行こうとすると、だいたいコーネルの大学院には行かず、他の大学の大学院に行くのです。
ところが日本はそうならず、だいたい同じ学部のまま院に上がっていきます。そうすると、GRIPSのような大学院大学には、(他の大学を)卒業したばかりの学部生はあまり来ないのです。そもそも私は、そういう新卒の学生は取らないという方針だったので、それで一向に構わなかったのですが、その結果、日本人の学生数は非常に少なかったのです。
今は、学部や修士課程を卒業し、役所や企業に入って7~8年働いた後、「自分が一生やりたい仕事はこういうことではない」と考えてそこを辞める若い人がずいぶんいます。その人たちが転身する上で、GRIPSが役立てると本当にとても良いことだと思っていますが、なかなかうまくいきません。
例えば、GRIPSでPh.D.(博士号)を取って、国際機関に行ったり、あるいは研究者になったり、場合によったらエンジニアになったりなど、いろいろな進路が可能だと思います。(GRIPSを)そういう転身の場にしたいとずっと考えていたのですが、なかなかその部分がうまくいっていないのです。でもそう考えている人は、実際に会ってみるとたくさんいることが分かります。
例えば、GRIPSで修士課程を1年、ないし博士課程を3年ほどやり、その後ワールドバンクやADB(アジア開発銀行)に行くという人は結構いるのです。それは日本人が多いのですが、だいたいそういうタイプの日本人です。アメリカやイギリスに留学しなくても、GRIPSで1年間やれば、英語は相当使えるようになります。
そして、経済学や政治学もきちんとしたトレーニングをします。だから、(GRIPSに)どうやったらもっと来てくれるのかが、今のところ一番大きい課題かと思います。
●日本でも海外留学並みの成果獲得が可能
おそらく、それは(GRIPSが)まだ世間によく知られていないからだろうと思います。政策研究大学院大学(GRIPS)が、そもそもどんな大学なのかが、日本では社会的にいまだによく知られていません。東南アジアの方がはるかによく知られています。では、どうしたら「GRIPSで何ができるのか」ということを、もっと知ってもらえるか。これがおそらく、田中明彦学長の最大の課題ではないかと思います。
顧問や経営委員になって私を6年間ずっと助けてくれた人は皆、「もったいないから、もっと日本人を教育しなさい」と言います。確かにその通りです。
例えば、昨年(2016年)でしょうか、ある地方銀行の中堅の人が、「ヤング・リーダーズ・プログラム」に参加しました。これは、(企業の中で)かなり良いところまで昇進するだろうという人だけを集めて行う1年間のプログラムです。その地方銀行の人は、成績も非常に良かったのですが、最初に来た時は英語が全く話せませんでした。
ところが1年たってみたら、きちんと話せるようになりました。入る前、どうしても点数が足りないので「英語を1カ月間、集中的に勉強してから来い」という条件を付けて、来てもらったのです。結果的に1年やってみたら、成績は良いし、英語で自由自在に留学生と対話をできるようになりました。
GRIPSの学生は、ほとんど東南アジアから来ているでしょう。だから彼は、東南アジアに行ったら、どこに行っても友だちがいます。そういう人をどうやって集めるか。ということで、そうした試みを今後いろいろな形でできないかなと思っています。
●30代で転身をしたい人には最適
もちろんケネディスクールに行けば、そこには非常に優秀な人たちがいますので、うまく友だちをつくれば、相当良いネットワークが構築できると思います。ただ、(日本の場合、)下手に地方の大学に行くぐらいであれば、ここ(GRIPS)に来た方がいいでしょう。毎年、だいたい56~57カ国から留学生が来ています。東南アジアが中心ですが、それ以外にも南アジア、最近ではアフ...