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産業革新機構とシリコンバレーの違いに学ぶファンド論

日本型ファンドはどうすれば成功できるのか

西山圭太
東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/元・経済産業省商務情報政策局長
情報・テキスト
日本の社会でファンドを成功させるためにはどうすればいいか。産業再生機構はうまく行ったが、その後、平成21(2009)年に創設された産業革新機構は厳しい状況にある。官民連携によるファンドは当たり外れが大きく、しかもうまく行くほうが少ない。それでも日本のような横並び社会では、公的権威を持った機関が進めていくことが必要。シリコンバレーに学べば、ファンドに大事なのは経験値で、官民ファンドにすることで得られる経験値は格段に多くなる。
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:10:14
収録日:2020/10/28
追加日:2021/02/21
≪全文≫

●官民連携ファンドが必要な理由


―― 西山さんが携われた仕事に、産業再生機構があります。こちらは、4年間でそこそこの功績を出しましたが、その後、平成21(2009)年に創設された産業革新機構は、ある段階から迷走しているように思います。何が悪かったのでしょう。

西山 まだ存続しているので、今評価をするのは早いのですが、私なりの考えをいうと、産業再生機構は平成15(2003)年につくった組織で、一般論としてどうしても一番最初が一番良くなるのです。理念もはっきりしていますし、そこに集まった人もいわゆる「変人」が多いけれど、やりたいという目的が決まっている。

 ところが組織ですから、時間が経つと変化してきます。また役所との関係で、やはり管理する方向になる。誰が悪いということではなく、やっている人たちも、いわば「サラリーマン化」しやすいのです。

―― なるほど。

西山 私は再生機構と革新機構の両方に関わってきたので、ちょっとずるい言い方かもしれませんが、あの種の仕組みは日本にすごく必要だと思います。

 なぜなら日本の場合、大きな決断をあまり時間をかけずにしようとすると、公的な権威があったほうが進むからです。個人的にはそういう体質は嫌いで、「自分でやれよ」と言いたいのですが、この社会がそうできているのです。

 それそのものを変えようとすると、たぶん3000年ぐらいは掛かりそうです。そうなると、私が生きているうちには無理です。

 ただ、あの種の官民連携はアートみたいなところがあって、いわばスイートスポット(最適打球点)がせまいのです。

 そこに当たるような体制ができれば、うまく行く。スイートスポットにはまると、官の良さも民の良さも両方出て、すごく行ける。しかしそこからズレると、容易に官の悪さと民の悪さが組み合わさり、ダメになる。だからすごく難しいプロジェクトだと思います。

 つまり、もともと鵺(ぬえ)的なことをやっているのです。再生なり、革新を進める上で、「俺たちは公的な組織だから」という顔を使い、一方でビジネスとして成り立たせるため、「それは民間のジャッジメントです」という顔も使うと。それで、まさに良いほうと良いほうが組み合わされば、良いほうに行くのです。

 逆に行けば、「これは国のお金だからイージーでもいい」となり、一方で民間の「勤めているうちに自分さえ良ければいい」という考えの組み合わせになる。

 今の革新機構がそうだとは言いませんが、もともとスイートスポットがすごくせまいのです。

―― ものすごくせまいんですね。

西山 そう思います。ただ私自身は、それでもあの種のことをやらないと進まないと思っています。日本人は、別にサボっているわけではなく、「ああやればいい」という気づきがあれば、できるのです。ところが「ああやればいい」が1つもないときに、理屈や抽象論で言われても伝わりにくい。

 もっと正直にいうと、本当は抽象的に考えて自分で動いてほしいのですが、それができにくいという前提があると、それを問題にしても3000年解決しない。やはり実例をいくつかつくるしかない。すると実例をつくるときに、当然聞かれます。「なぜ私なのですか」と。あるいは、「なぜ、あいつなんだ」と。みんな、ある種の横並びなので。

 でも、それを議論したところで客観的な根拠などあるはずありません。たまたま、その人を最初にしたというだけです。

 そこで一つの実例をつくる仕組みとして、うまくやればすごく意味が出ると、私自身やりながら思いました。ただスイートスポットがすごくせまいことも確かなので、「仕組み化」できるものではありません。意志がすごく合致した人たちがそこに集まり、短期プロジェクトでやる。たぶんベンチャーと一緒だと思います。もしやるのであれば、そういうものだと思って取り組むことが大事です。あれを普通の政府基金のように仕組み化して管理しようとすると、どうか。管理はできますが、別にそういうものではないと思います。

―― スイートスポットがせまいですからね。


●大事なのは経験値を増やすこと


西山 一方で私はたくさんつくることには、もともと反対でした。仕組み化ができるなら、たくさんつくればいいのです。いわゆるベスト・プラクティス(最良慣行)があるなら、みんな仕組みをコピーすればいい。でも、そういうものではないと思います。

―― なるほど。

西山 やらせて、失敗したら、やめる。そして次に、一からつくる。そういう類いのものだと思います。いろいろなご意見があるでしょうが。

―― でもアメリカのシリコンバレーの生態系は、そういう話ですよね。

西山 だからあそこは、ものすごく濃密なエコシステムなのです。人間のネットワークがあって、みんなお互いのことを知っている。お...
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