●官民連携ファンドが必要な理由
―― 西山さんが携われた仕事に、産業再生機構があります。こちらは、4年間でそこそこの功績を出しましたが、その後、平成21(2009)年に創設された産業革新機構は、ある段階から迷走しているように思います。何が悪かったのでしょう。
西山 まだ存続しているので、今評価をするのは早いのですが、私なりの考えをいうと、産業再生機構は平成15(2003)年につくった組織で、一般論としてどうしても一番最初が一番良くなるのです。理念もはっきりしていますし、そこに集まった人もいわゆる「変人」が多いけれど、やりたいという目的が決まっている。
ところが組織ですから、時間が経つと変化してきます。また役所との関係で、やはり管理する方向になる。誰が悪いということではなく、やっている人たちも、いわば「サラリーマン化」しやすいのです。
―― なるほど。
西山 私は再生機構と革新機構の両方に関わってきたので、ちょっとずるい言い方かもしれませんが、あの種の仕組みは日本にすごく必要だと思います。
なぜなら日本の場合、大きな決断をあまり時間をかけずにしようとすると、公的な権威があったほうが進むからです。個人的にはそういう体質は嫌いで、「自分でやれよ」と言いたいのですが、この社会がそうできているのです。
それそのものを変えようとすると、たぶん3000年ぐらいは掛かりそうです。そうなると、私が生きているうちには無理です。
ただ、あの種の官民連携はアートみたいなところがあって、いわばスイートスポット(最適打球点)がせまいのです。
そこに当たるような体制ができれば、うまく行く。スイートスポットにはまると、官の良さも民の良さも両方出て、すごく行ける。しかしそこからズレると、容易に官の悪さと民の悪さが組み合わさり、ダメになる。だからすごく難しいプロジェクトだと思います。
つまり、もともと鵺(ぬえ)的なことをやっているのです。再生なり、革新を進める上で、「俺たちは公的な組織だから」という顔を使い、一方でビジネスとして成り立たせるため、「それは民間のジャッジメントです」という顔も使うと。それで、まさに良いほうと良いほうが組み合わされば、良いほうに行くのです。
逆に行けば、「これは国のお金だからイージーでもいい」となり、一方で民間の「勤めているうちに自分さえ良ければいい」という考えの組み合わせになる。
今の革新機構がそうだとは言いませんが、もともとスイートスポットがすごくせまいのです。
―― ものすごくせまいんですね。
西山 そう思います。ただ私自身は、それでもあの種のことをやらないと進まないと思っています。日本人は、別にサボっているわけではなく、「ああやればいい」という気づきがあれば、できるのです。ところが「ああやればいい」が1つもないときに、理屈や抽象論で言われても伝わりにくい。
もっと正直にいうと、本当は抽象的に考えて自分で動いてほしいのですが、それができにくいという前提があると、それを問題にしても3000年解決しない。やはり実例をいくつかつくるしかない。すると実例をつくるときに、当然聞かれます。「なぜ私なのですか」と。あるいは、「なぜ、あいつなんだ」と。みんな、ある種の横並びなので。
でも、それを議論したところで客観的な根拠などあるはずありません。たまたま、その人を最初にしたというだけです。
そこで一つの実例をつくる仕組みとして、うまくやればすごく意味が出ると、私自身やりながら思いました。ただスイートスポットがすごくせまいことも確かなので、「仕組み化」できるものではありません。意志がすごく合致した人たちがそこに集まり、短期プロジェクトでやる。たぶんベンチャーと一緒だと思います。もしやるのであれば、そういうものだと思って取り組むことが大事です。あれを普通の政府基金のように仕組み化して管理しようとすると、どうか。管理はできますが、別にそういうものではないと思います。
―― スイートスポットがせまいですからね。
●大事なのは経験値を増やすこと
西山 一方で私はたくさんつくることには、もともと反対でした。仕組み化ができるなら、たくさんつくればいいのです。いわゆるベスト・プラクティス(最良慣行)があるなら、みんな仕組みをコピーすればいい。でも、そういうものではないと思います。
―― なるほど。
西山 やらせて、失敗したら、やめる。そして次に、一からつくる。そういう類いのものだと思います。いろいろなご意見があるでしょうが。
―― でもアメリカのシリコンバレーの生態系は、そういう話ですよね。
西山 だからあそこは、ものすごく濃密なエコシステムなのです。人間のネットワークがあって、みんなお互いのことを知っている。お...