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阿川佐和子の結婚相手ではない!ネット社会の誤報問題

誤報の広がり方:私は阿川佐和子の結婚相手ではありません

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、現代のネット社会における重要テーマ、誤報問題について論じる。事例として取り上げたのは、曽根氏自身が巻き込まれた誤認報道だ。ネット社会特有の、裏付けのない情報がどんどんと拡散してしまうという厄介な問題に、われわれはどう向き合うべきなのだろうか。
時間:12:50
収録日:2017/05/25
追加日:2017/06/08
≪全文≫

●わが身に降りかかった誤報


 今日は、誤報の広がり方についてお話ししますが、サブタイトルは「私は阿川佐和子の結婚相手ではありません」というものです。このサブタイトルを聞いて、「随分と不思議な話をするんだな」と思うかもしれませんが、ネット上で、私が阿川佐和子の結婚相手だとする記事、写真は山ほど出ています。

 結論的に申し上げると、私と阿川佐和子とは一切、接点はありません。それでも誤報はどんどん広がってきます。テンミニッツTVの視聴者の方には、大変に違和感、唐突感があると思います。また、ここでこのような個人の話をするのは、私の今までの方針とも異なっています。サブタイトルも身もふたもない、何の工夫もないタイトルをつけていますが、凝ったタイトルをつけるとまた誤解されるので、はっきりと「私は結婚相手ではありません」としました。しかも、今日の話は一貫して敬称略でお話しします。


●裏付けのない事実が、推論され拡散していく


 『週刊文春』の5月18日発売号で、阿川佐和子の8ページにわたる手記が出ました。これでもう誤報は収束するだろうと思っていたら、依然続きました。続くどころか、むしろ写真と記事が増えました。

 「これは何なんだ?」というのが、そもそもの今日のお話です。実際の事の起こりは、昨年(2016年)11月15日発売の『FLASH』の記事でした。その後、ネットに非常にたくさんの記事が出てきました。最近、経済学者、統計学者が「相関関係と因果関係は違う」という話をしていますが、今日の話はそんな高尚な話ではありません。関係というものが少しでもあると、そこから推論をして、ファクトではないこと、つまりわれわれが言うところの裏付けのない事実が拡散していってしまう、という話なのです。


●記事の情報と事実は随分と違う


 では、その「関係」とは何でしょう。阿川佐和子が同棲している相手が「慶應大学のS教授」とイニシャルで呼んだところが、事の起こりです。記事に関して見れば、随分と事実と違うところがあるのです。結婚相手は「元教授」と出ていますが、私は「元」ではなく「現」教授です。歳も阿川佐和子の「6つ上」と書いてありますが、『FLASH』の記事が出た当時は「5つ上」でした。また、「2、3年前に離婚をしている」と書かれていますが、私の場合は20年前に妻と死別しています。髪の毛も「白い髪の毛の紳士」とありますが、私の髪の毛は白か黒かといえば黒い方だと思います。

 ただ、逆にこちらが推論をすると、これが、私を結婚相手とする情報が流れる根拠となるわけですが、阿川佐和子の兄である阿川尚之が私と親しいという情報が流れました。なぜかというと、私と阿川尚之は同じ学部の同僚として随分と長くやっていたからです。つまり、同僚であるということは、つきあいがあるということです。しかし、妹とまでつきあっているとは限りませんし、そういう事実もありません。私は「阿川佐和子と100パーセント接点はない」と言いましたが、実は30年以上前に2人がいるところを目撃しています。このことをもって、なんだかんだとは申しません。


●「よく読めば分かる」はネットでは通じない


 こうしてみると、記事の情報と実際には違いがたくさんあるのですが、イニシャルで呼ぶとか、あるいは非常にあいまいな形で述べるなどというのは、取材を受けて突っ込まれて阿川佐和子がたじろぎ、あるいはうろたえて、そこで格好をつけて答えたことが一つの原因だと思います。はっきりいえば、「ベッキーにはなりたくなかった」ということでしょう。

 それから、ネットでよく見られる一つの現象があります。「よく読めば分かる」、あるいは「分かる人には分かる」というのは、ネットでは通じないということです。例えば、結婚相手は、手記では「作家の伊集院静さんと同じ高校の出身者」と書いてあります。このことがはっきりと分かるような人は、ネットで情報を拡散などしません。よく読めば、私と伊集院氏とは全く違う高校の出身であることはすぐ分かるのですが、そんなことはチェックしません。

 また、阿川佐和子の結婚に関する記事で一つの問題点は、肝心な情報を開示していないことです。大学教授ということであれば、普通は「何を教えているか、どの分野か」を書きます。あるいはそのヒントを出します。それをしていないのです。あるいは、慶應大学にはたくさんのキャンパスがありますから、どのキャンパスかということを示していれば、誤解、誤認ということはかなり少なくなると思います。


●身近な人たちから「ひょっとして」という問い合わせ


 このような、「実際は違うんだ」ということを今申し上げましたが、実は私の非常に身近なところで、「ひょっとして」という問い合わせがすぐありました。昨年11月15日の『FLASH』発売直後に、アメリ...
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