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ネットの炎上ではユーザーの偏りを認識することが重要

ソーシャルメディアにおける情報拡散(2)ユーザーの偏り

鳥海不二夫
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻教授
情報・テキスト
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授の鳥海不二夫氏によれば、ソーシャルメディアでのバースト現象には、ユーザーの偏りが見られるということだ。オリンピックのエンブレム問題で騒いでいたのは、主に保守系のコミュニティに属する人たちだった。炎上事例において、こうしたユーザーの偏りを認識することが重要である。(全3話中第2話)
時間:08:04
収録日:2017/05/30
追加日:2017/07/05
≪全文≫

●バースト現象において、興味を持っているのは誰なのか


 バースト現象が発生した場合、それが一体どのような意味を持っているのかということを、正確に把握する必要があります。何かが話題になって、わっと盛り上がったけれども、そのまま特に何もなく鎮火する、その話題が終わってしまうということは、よく見られます。例えば、これをマーケティングに利用しようとする場合、自分たちが伝えたい相手に、本当にリーチしているのかが問題になるでしょう。あるいは逆に、企業が炎上したといっても、実際にその顧客が炎上しているのか、それとも、全く無関係の人たちが騒ぎ立てているだけなのか、正しく認識しなければなりません。

 そこで、炎上において、どのような人が興味を持っていたのか、ということを分析してみたいと思います。バースト現象に、本当に興味を持っているのは誰なのか、ということです。バースト現象が発生した場合、1つの意見しかないということは、ほとんどありえません。どんな場合でも、たいてい複数の多角的な見方が存在しています。逆にいえば、多角的な見方ができないものについては、あまり炎上はしないでしょう。

 したがって、多様な意見の存在を前提した上で、誰がどのような意見を持っているのかを把握することは、炎上を理解するために欠かせません。例えば炎上であれば、それは危険な炎上なのか、あるいはマーケティングであれば、伝えたい人にきちんと情報が拡散しているのか、ということを分析する必要があります。


●ユーザーの偏りに注意が必要だ


 情報拡散において、誰がどんな意見を持っているのかということについて、コミュニティというレベルで捉えてみたいと思います。誰が何をリツイートしたのかという情報を使って、コミュニティ単位での情報拡散の分析を行うのです。個人個人は、さまざまなコミュニティに属しているため、コミュニティというまとまりで捉えることによって、統計的に分析することができるでしょう。

 まず、どのような話題が、いつ、どのコミュニティで出現したのかということを見ていきます。その際、ユーザーの偏りに注意が必要です。ある視点での見方は、特定の人たちだけに偏って持たれているのか、それとも世間一般がそうした見方を持っているのか、このことを理解しておかなければなりません。

 偏りを調べる場合、エントロピー(Entropy)と呼ばれるものを見る手法があります。細かいことは割愛しますが、エントロピーは、大きければ大きいほど雑多な状態であり、小さければ小さいほど整理整頓された状態を示します。情報拡散に関して、整理整頓というのは、一部の人たちだけに伝わっているという意味です。他方、雑多な状態は、いろいろな種類の人たちに伝わっているという意味です。偏りが大きいということは、特定の人たちがその視点を持っているということであり、偏りが小さいということは、世間一般の見方であるということです。


●エンブレムへの直接的な批判は偏りが大きかった


 このエントロピーのグラフは、オリンピックのエンブレム問題に関して、幾つかのトピックごとに、偏りがどの程度あったのかを示しています。これだけ見てもよく分かりませんので、内容を示します。トピックごとに、興味を持った人の数を、1位から10位まで大きい順に並べています。

 トピックの内容としては、エンブレムへの批判や、ネタ的なまとめサイト、批判的なまとめサイト、2ちゃんねる系のまとめサイト、デザイナーへの批判のまとめサイトへのリンクが、上位に来ています。次に、デザイナーを擁護したもの、個人バッシングへの批判が続きます。デザイナー個人に対する攻撃が非常に強かったので、それに対する批判もあったわけです。

 このように、エンブレムが良くないという批判がある一方で、そうした批判をすること自体良くないのではないかという、反対側の意見もありました。こうしたトピックに関して、それぞれの偏りを見ていきます。エンブレム等に対する直接的な批判の偏りが、比較的大きいのに対して、こうした批判に対する批判や擁護の意見は、比較的偏りが小さくなっています。


●エンブレム問題では、ネット右翼たちだけが騒いでいた


 次に、コミュニティについてですが、Twitter上でコミュニケーションを取っていた人たちは、同じコミュニティに属していると仮定して、コミュニティを抽出します。詳しい説明は省きますが、同じコミュニティにいる人たちのプロフィール情報と、Wikipediaの情報を併せて、ラベリングを行いました。そのようにして、どのような人たちが、オリンピックのエンブレム問題に興味を持っていたのか、どのような視点があったのか、ということを見たところ、圧倒的に1つのコミュニティが中心になって、書き込みが行われていたことが分...
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