●インターネットにおける情報拡散をきちんと知る
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授の鳥海不二夫です。今日は、ソーシャルメディアにおける情報の拡散について、お話します。
ご存じのように、インターネットでは、いろいろな情報が拡散しています。炎上と呼ばれる、企業等にとってあまり良くないことから、広告効果が非常に高いような話題まで、さまざまな情報が拡散している状況です。インターネットにおける情報拡散について、きちんと知るということは、今後の社会においても、きわめて重要です。そこで今回は、データの側面から、情報拡散を見ていきたいと思います。
●ソーシャルメディアはインフラになっている
ソーシャルメディアの普及については、言うまでもありません。TwitterやFacebook、最近ではLINEといったメディアが、非常に普及しています。現在、10代、20代の約9割がLINEを利用しており、もはやほとんどインフラといってもいいレベルに達しています。
FacebookやLINEは、実はクローズドなソーシャルメディアです。仲間内だけで利用される場合が多く、外部の人が見るのは難しくなっています。他方、Twitterはオープンなソーシャルメディアです。利用者でなくても、誰でも見ることができます。したがって、非常に情報が拡散しやすいという性質を持っています。今回は、このTwitterと呼ばれるソーシャルメディアに注目し、こちらを使ってデータの分析を行った結果を紹介したいと思います。
●Twitterではリツイートの連鎖が発生する
Twitterに特有の機能として、リツイートと呼ばれる機能があります。これによって、Twitterでは情報が拡散しやすくなっています。リツイートとは、誰かがツイートと呼ばれる投稿を行ったときに、その投稿を見た人が、自分の友達(フォロワー)にそれを紹介するための機能です。これによって情報が拡散されていきます。
例えば5月には、カールというお菓子が東日本で発売停止になるという話が、話題になりました。この話題を誰かが投稿し、それを見た人たちがこれは重要な情報だと判断すれば、その投稿をリツイートします。そうすると、リツイートした人の友達にも、情報が拡散されます。さらに、リツイートされた情報を見た人は、それをまたリツイートすることができます。このようにして順次、情報をどんどん拡散することが可能になっているのです。
確かに、同様の機能はFacebookなどにもあるのですが、オープンなソーシャルメディアであるTwitterでは、こうしたリツイートによる拡散が非常に容易に行われます。したがって、炎上事例が発生する場合、Twitterがベースとなっていることがよくあります。Twitterでは、リツイートの連鎖が発生するのです。数万人、数十万人の方が、リツイートするという現象が見られます。
●オリンピック・エンブレム問題のバースト現象
このように、リツイートによる情報の拡散が起きているということは分かっているのですが、その詳細については、Twitterを見ただけではなかなか分かりません。そこで、これをデータの側面から分析したものをご紹介します。情報の拡散について、「炎上」というと、どうしても悪いイメージが強いので、われわれは「バースト現象」と呼んでいます。良い側面であれ悪い側面であれ、情報は実際にはどのように拡散していくのでしょうか。
オリンピックのエンブレム問題を取り上げてみましょう。2020年東京五輪・パラリンピックの公式エンブレムのデザインが、2015年に発表されました。ところがインターネット上で、そのデザインがベルギーのリエージュ劇場のロゴマークに似ているのではないか、ということが話題になったのです。結局、2015年9月、このエンブレムは撤回されてしまいました。
もう少し細かくいえば、問題になったのは、エンブレムのデザインが単に劇場のロゴに似ている、ということだけではありませんでした。デザイナーの方が携わった作品の多くに、盗作疑惑が出てきたのです。いろいろな検証が行われ、他にも似たようなロゴがあると言われました。こうした否定的な見方だけではなく、他のデザイナーの方々からは擁護するような意見もあり、結局この話題は炎上しました。最終的には、それがマスメディアによって取り上げられて、エンブレムの使用中止につながったのです。
こうした流れの中で、Twitter上では、実際には、どのようなことがつぶやかれていたのでしょうか。それを分析するために、データ収集を行いました。
全ての投稿数の推移のうち、このエンブレムに関係した投稿は、1日当たり、平均すると10万件程度にのぼります。何か関連する新しいニュースがあるたびに、その数は少し増えます。それ以外の時は、数万件程度のツイート数があり、時々バーストするけ...