●50歳になって、結婚について真剣に考えるようになった
末井昭です。よろしくお願いします。これから結婚についてお話したいと思います。結婚は、人生の中でも大きな出来事です。けれども、そのわりには、あまり真剣に結婚の意味について考えることはありません。
そういう私も、結婚について真剣に考え出したのは50歳くらいになってからです。それまでは、何も考えず、ただ一緒に生活してきたような感じでした。
なぜ50歳になって、結婚について真剣に考えるようになったかというと、好きな人ができて、この先どうしようかと思い始めたからでした。それまでも、いろんな方とお付き合いをしてきました。要するに、不倫です。とはいえ、不倫相手の恋人たちとは、結婚しようと考えたことはありませんでした。
ところが、「この人は!」という女性が現れたのです。はじめは、不倫相手も奥さんもみんな一緒に住んではどうかと考えたりもしたのですが、それは日本の婚姻法上、現実味がなかったので、やはり誰か1人を選ぶということになりました。そのため、ずっと一緒に暮らしてきた奥さんの元から家出をして、その女性と一緒に住むようになったわけです。
●嘘を積み重ねていくと、自分が弱くなっていく
なぜ、その女性に対して「この人は!」と思ったのかというと、彼女が今までお付き合いしてきた女性たちとは違うところがあったからです。それは、彼女が嘘のない人だったということです。
だから、彼女は私にずけずけと何でも言うわけです。「本人のために」と思ったら、もうやめてほしいというくらいまで、とことん言うのです。
今まで何人かの女性とお付き合いしてきましたが、嘘がない女性はなかなかいませんでした。やはり、なんとなくごまかしがありました。ごまかすというと語弊があるかもしれませんが、お互いの都合がいいことを言って別れるとか、日常会話でもどこかそうした嘘が少なくありませんでした。
嘘が悪いということではありません。社会生活を行う上で、まったく嘘がない生活はできません。もちろん、仕事をする上でも嘘は必要です。余談になりますが、政治家は嘘をつくのが仕事のようなもので、彼らが話すことは全て嘘ではないかと思っています。
私もずっと嘘をついてきました。でも、実感として、嘘を積み重ねていくと、どうしても自分が弱くなっていくのを感じていました。
●嘘のない彼女と暮らせば、自分が変わるのではないか
例えば、愛人がいて、夜遅くに帰ると、奥さんに「どうしたの」と聞かれます。そんな時、「ちょっと仕事が忙しくて」などと嘘つくと、やはり心がチクっと痛みます。
そういうことが積み重なると、人間はどんどんどんどん弱くなるのです。逆に、本音で生きている人は、強いと思います。そういう意味で、私はすごく弱い人間でした。
そうやって弱い人間として生きてきたのですが、50歳になって、好きな人ができ、その恋人と暮らせば、自分が変われるのではないかと希望を抱きました。
でも、前の奥さんとは結婚が早く、かれこれ30年ほど一緒に暮らしてきたため、その奥さんに対しての情は濃く、子どもはいませんでしたが、なかなか「別れよう」と打ち明けるふんぎりがつきませんでした。そんなことを言ったら、相手がどれだけ悲しむだろうと考えると話を切り出せず、ずっともやもやしていました。
●奥さんの元から家出するまで
もやもやをどうにか振り切ろうと思い、知り合いに「私は離婚する」と言いふらすようにしました。離婚に向けて自分に勢いをつけようと思ったのです。ところが、「やめなさい」とか、「誰と結婚しても同じですよ」とか、「女はみんな同じだから」という答えが返ってきました。皆、私と同年代で当時だいたい40代後半か50代ぐらいの男性たちですが、そう言うわけです。
彼らがそうやって考えるのは、それがその年代の人たちの実態だからです。つまり、何となく夫婦関係が冷えていて、そういう状態の夫婦が日本にいっぱいいるのだろうと、その時思いました。
それに対して、私は新しい夫婦の関係を築いていきたいという意識もあったので、同年代の皆さんのありがたい忠告を無視させていただきまして、妻と別れました。紙袋を持って家出したのです。
実際には家出してから1度家に戻ったので、2度家出したわけですが、そのあたりの顛末を書いたのが、この『結婚』(平凡社)という本です。
●「読んだら絶対に結婚したくなくなる本」だったら、書きたい
『結婚』は非常に好評で、いろんなところで取り上げていただいているのですが、この本は、私の方から書きますと言って始まったものではありません。
平凡社の編集者の方から「末井さん、結婚について書いてみませんか」と依頼されました。冒頭の通り...