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老人の自殺が何十年もない町―徳島県の海部町

末井昭、「自殺」を語る(5)生き心地の良い町の秘密

末井昭
編集者・作家
情報・テキスト
『生き心地の良い町』(岡檀著、講談社)
編集者・作家の末井昭氏が「自殺」について語る第5弾は、健康社会学の先生である岡檀氏の著書『生き心地の良い町』を参考に、「自殺のない町」の特性を考える。そこでは徳島県の海部町というところが紹介されているのだが、その町の住民は他の町の人とは異なる気質を持っているという。自殺率の低さを誇る海部町の秘密とは?(2015年6月16日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「私が『自殺』を書いた理由と“生きづらさ”を取り除く方法」より、全6話中第5話目)
時間:16:40
収録日:2015/06/16
追加日:2015/07/30
カテゴリー:
≪全文≫

●生き心地の良い町-徳島県の海部町


 私が『自殺』を書いた後、岡檀(おかまゆみ)さんという方が、『生き心地の良い町』(講談社)という本を書かれました。私はこれをすぐ読んだのですが、秋田県のことも含め、ここに全て回答が入っているような気がするのです。そればかりではなくて、どうしたら自殺というものを減らすことができるのかということも、この中に入っているような気がして、この本を皆さんにも紹介しようかなと思って、持ってきました。

  岡さんは、健康社会学の先生なのですが、フィールドワークでいろいろなコミュニティーのことを研究されているのです。徳島県の海部町という町がありまして、今は海陽町という所に合併されていますが、そこは老人の自殺が何十年もずっとなかったのです。そのことを岡さんが新聞記事か何かで読んで、なぜだろうという疑問を持ち、調査に行かれたのです。そして、4年ほどその町に通ったり、半分住んだような状態になったりして、その町をフィールドワークとして調査していくわけなのです。それで、だんだんその原因が分かってくるのです。これが、ある種謎解きのような感じで、読み物としてもすごく面白いのです。


●海部町の特性-いろんな人がいてもよい


 そこで、最終的に五つの要因が浮上してくるのですね。それが、本の裏の帯に書かれています。読んでみますと、「1.いろんな人がいてもよい。いろんな人がいたほうがよい」、これが一つの要因なのです。 

 これはどういうことかといいますと、具体的な例として、海部町では赤い羽根募金が集まらないらしいのです。なぜかというと、私などのところにもよく、近所の方が募金のために回ってくることがあるのですが、面倒くさいので隣の家がいくらか入れたら同じ額を入れたりします。海部町の方は、「どこに使われるか分からない赤い羽根なんていうのには、うちは寄付しません」と言うのです。その代わり、自分のところの村や町のお祭りなどには、ばっと大枚をはたいて寄付したりするわけですね。自分の目で見えるもの、自分の想像ができるもの、何に使われるか分かるようなものに対しては、お金を払ったりするのだけれど、訳の分からないものに寄付はしないという人も結構多かったりするのです。

 地方や田舎のコミュニティには大体、皆がこうするからこうしましょう、というような人が結構多いのです。ところが、海部町は、人は人で、別に他の人がするのならしてもいいし、自分はしたくないならしないという、なんだかまとまりが悪いともいえるような風土らしいのです。

 もう一つ具体的なことで、岡さんが調査したのですが、特別支援学級というものをつくろうという話が出たらしいのです。知的、あるいは身体的に少しハンデを持っている方を集めた学級をつくるということに、近隣の町は賛成でやりましょうということになったのですが、海部町の人は、それは反対だ、そんなことはしたくない、しない方がいいと言うらしいのです。なぜかというと、人はいろんな人がいていいんだ、一つの学級の中でいろんな人が集まっていていいんだ、そういう人を分けて別の学級をつくる必要はないのではないか、という発想があるからなのですね。


●独特の風土をつくった海部町成立の歴史


 海部町は、少し他の町と違う風土なのです。それはなぜかというと、少々特殊な町の成立の歴史があるのです。江戸時代に豊臣方が戦で負けまして、大坂が焼き払われるのですね。家が火事になってしまうのです。その後、東日本大震災と同じような大坂復興というものがあり、材木を非常に必要とした時期があったらしいのです。その材木を運び出すのが海部町でした。四国は森林が豊かだったのですね。しかも海部町には大きな川がありまして、伐採した材木をその川で運んでいました。港も完備されていたらしく、材木を集積して大坂の方に運ぶ起点になっていたわけです。そうして、「あそこに行けば金を稼げるぞ」ということで全国から一発屋といわれるような人がわっと集まって成立した町なので、昔から先祖代々ずっと住んでいるコミュニティーとは少し違う、異質な町らしいのです。そういう経緯があるから、今のような風土になっていったのかどうかは分かりませんが、「いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい」というのが、一つの海部町の特徴なのです。


●海部町の特性-人物本位主義と有能感


 それから、人物本位主義ですね。これも調査した結果、分かったことのようです。肩書きのある方や町の顔役などがいろいろと政治的なことをつかさどったりするパターンは多いのですが、この町では、若くても実力があればその人にいろいろな議員や何かの世話役をやってもらうということが割と多いらしいのです。ですから、その人の実力や全体を見回す能力が本当に...
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