●国への提言1.いじめ防止対策の中にLGBTをきちんと位置付け
このような状況の中、私どもが日本の政府に対して提言してきたことがいくつかあります。そのうちの一つが、いじめ防止対策の中にLGBTの子どもたちを位置付けることです。まずは学校の先生たちの理解を進めて、LGBTの子どものいじめにしっかり対応した制度、対応を学校側に求めるということをやっていきました。
これらに関しては、文科省も当初は「そういったことは難しい」といった見解だったのですが、その後よく検討してくださいました。ちょうど今年(2017年)の春に、国の方針が改定されて、「いじめ防止基本方針」にあるいくつかのカテゴリーの中で、特にそういったいじめに遭いやすい子どもたちのカテゴリーを初めて特定したのです。そのうちの一つが、この性的指向、性自認のマイノリティの子どもたちをしっかり位置付けをして、学校と先生方に対する対応を求めたという内容になります。
●LGBTの位置付け、対策がないままでいじめ対応は無理
これ自体は非常に大きな動きで、やはりまずは制度の中でしっかり位置付けられることが必要だと思います。
われわれが話を聞いてきた先生の中にも、LGBTの子どもたちのいじめに実際に対応しなくてはいけない場面に遭遇した先生もいるのですが、その中でも大きかった声としては、学校側にはLGBTの子どもたちへのいじめに対して何も対策がなく、そういった状況の中で「LGBTだからいじめられている」といったことを問題として挙げると、むしろ学校側がどのように対応してくるかよく分からない、というものでした。それよりも、ただ普通に「いじめです」という形で報告した方が、スムーズにしっかり対応してもらえるのではないか、つまりLGBTという部分は伏せて学校の中では処理せざるを得ない、というような声などもありました。
そのようなやり方だとやはり問題に対する有効な手だては打てないと思いますので、LGBTがしっかり位置付けられることでそういった現場での有効な対応もしやすくなってきたかなと思っています。
●国への提言2.性同一性障害特例法の枠組みを変える
あと二つほど取り上げたいことがあります。まずは、トランスジェンダーの人たちを先ほどから申し上げている性同一性障害特例法という法律の下、どう扱うかということですが、この特例法の枠組みそのものがやはり大きく変わるべき時期に来ているのかなと思っています。
この特例法も、できてから10年以上たっています。できた当時は、日本で初めてトランスジェンダーの人たちを法的に認知するということで、画期的な法律だったと思います。そしてこの数年間で、トランスジェンダーの人たちを精神障害者として取り扱うのは世界的にも良くないという形で大きく変わってきており、特に手術要件に関しては基本的な人権の侵害だということで、そういった条件を課していた多くの国々でそれを撤廃する動きが出てきています。一方、日本ではその部分はまだ変わっていません。よって、日本でも、性同一性障害特例法は大きく変わるべき時期にきているということを提言しています。
●国への提言3.SOGIハラを解消する法律を導入すべき
次は、こういったLGBTの子どものいじめの本当の底流にあるものは、やはり性的な指向、性自認に基づくいじめや差別といったものは許されないという、そういう制度が日本にないということではないか、ということです。
これは例えば、男女のことでいうと、男女雇用機会均等法がもう何十年も前にできて、そういったものが一つの底流になって、今、男女の平等というものがある程度達成されてきたという状況はあるかと思います。そういった差別をしてはいけないという法律がある前の世界は、やはり今とは次元が違う差別や固定観念といったものが横行していたと思います。性的指向による差別を禁止する国というのは、世界で恐らく80カ国ほど、あるいは100カ国近くの国がそういった法律を導入しているかと思います。そういった意味でも、先進国の中でこういった性的マイノリティに対する差別をしっかり禁止している状態でない国、そういった法律がない国は非常に珍しいのです。
セクシャル・オリエンテーション(Sexual Orientation)、ジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)に基づくハラスメントや差別のことを「SOGIハラ」と呼ぶのですが、日本の中でも「SOGIハラ」を解消する法律が一日も早く導入されるということが、全国民向けの認識を基本的に高めるための最も有効なツールであり、必須のツールであると考えています。
●LGBTへの理解をきちんとした制度で根付かせる
性同一性障害特例法やSOGIハラ解消法などができてきたり、改正されてきたりすると、日本の今のLGBTの人々に対してこの数年で出...