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仮想通貨は金融市場にどんな影響を与えるのか?

フィンテックがもたらす金融革新(3)ブロックチェーン

藤井達人
株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行理事 デジタル企画部 部長
情報・テキスト
仮想通貨やブロックチェーン、スマートコントラクトといったフィンテックは、従来の金融機関や中央銀行に大きな影響を与える可能性がある。藤井達人氏が、ブロックチェーンの現状を解説する。(全3話中第3話)
≪全文≫

●デジタル化できるあらゆる権利を直接取引できる


 前回に引き続き、仮想通貨およびブロックチェーンについて取り上げます。ICOと呼ばれる仮想通貨による新しい資金調達方法や、今後、金融市場に対して仮想通貨が与える影響について見ていきたいと思います。

 前回は、仮想通貨の概念とそれを実現するブロックチェーンの仕組みを紹介しました。もう一つ、ブロックチェーンの大きな特徴に、「スマートコントラクト」という概念があります。スマートコントラクトとは、簡単にいうと、ある契約行動がプログラム化され、ブロックチェーン上で自動的に実行される仕組みです。

 仮想通貨は中央管理組織なしに、送金処理が可能です。同様に、スマートコントラクトを用いれば、中央管理組織なしに、また相手方を信用することなく、複雑な契約処理を行うことが可能になります。イーサリアム(Ethereum)やネム(NEM)といった、スマートコントラクトをサポートするブロックチェーンでは、通貨だけでなく、デジタル化できるあらゆる権利を、P2Pによって人と人とが直接取引できるのです。この意味で、ビットコイン(Bitcoin)は通貨を送金・保管することに特化した、スマートコントラクトそのものであると言えるでしょう。

 例えば、中古車を譲渡するケースを考えてみましょう。ブロックチェーン上に車の所有権がデジタル化されており、スマートフォンなどで車のエンジンをかけることができるものとします。中古車の代金の支払いが確認されると、買い手に車のエンジンをかける権利が自動的に移転するように、スマートコントラクトをブロックチェーン上に設定します。そうすると、代金の支払いが確認されれば、即座にP2Pを介して、人から人への車の移譲が完了することになるわけです。


●DAOでは、胴元となる管理者が存在しない


 ビットコインのような仮想通貨は、ブロックチェーンを用いることで、中央管理組織のコントロールなしに送金可能です。こうした仕組みは、法定通貨を発行する政府や、送金を取り扱う金融機関、あるいは国際銀行間通信協会(通称SWIFT)といった仕組みとは対極にあります。スマートコントラクトで中古車を譲渡するケースでは、単一の企業がプラットフォーマーとして全体を管理しているのではありません。むしろ、各参加者が自立的に他の主体と連携してサービスを実現しています。こうした形態の組織をDAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自動化組織)と呼びます。

 DAOでは、胴元となる管理者が不在であり、従来型の仕組みよりも低コストでありながら、同じようなサービスを提供できる可能性があります。他方、胴元が存在しないため、規制して誰かを取り締まるということが難しくなっているのも事実です。

 例えば「オーガー(Augur)」というイーサリアムのプロジェクトは、予測市場を提供しています。市場に参加する人は、将来起こるであろう事柄を予測し、その結果に投票する権利を購入します。自分が投票した予測が当たれば、参加者に対して利益が分配されます。このように、オーガーは、従来は胴元のブックメーカーが行ってきた予測市場を、スマートコントラクトを利用することで、胴元不在で実現するサービスなのです。


●ICOは玉石混合である


 次に、ICOと呼ばれる、仮想通貨による資金調達について見てみましょう。ICOとは、イニシャル・コイン・オファリング(initial coin offering)の略です。トークンと呼ばれる固有の電子的な記録をブロックチェーン上で販売し、その対価として、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨、あるいは日本円やUSドルといった法定通貨を得る、資金調達方法を指します。

 従来の株式市場におけるIPO(initial public offering、新規公開株式)では、会社が上場するために、証券会社を通して投資家に株式を売り出していました。これに対してICOの場合、企業あるいは団体が、なんらかの権利を付与したトークンを売り出して、そのトークンが仮想通貨交換所などに上場し、そこで値段が付けられます。このようにすれば、会社の所有権を株主に引き渡すことなく、また株式を上場する際のコストを大幅に減らして、世界中から比較的短期間で資金を調達することができるのです。投資家にとってはICOに投資し、上場後に値上がりすることで、値上がり益が期待でます。

 しかし、ICOは非常に玉石混合であり、ICOのプロジェクトの中には、全く中身がない詐欺に近いようなプロジェクトも存在します。したがって、投資を考える場合には、注意を要するケースが非常に多くなっています。さらに、中国や韓国のように投資家保護を目的として、ICOの行為自体を禁止する国も出てきました。日本ではすでに民間企業によるICOの事例がありますが、これからICOを始めようとする場合は、さま...
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