●事業再生の要素は組織の活性化に応用できる
秋池玲子です。私は産業再生機構で事業の再生に取り組んできましたが、産業再生機構解散後も事業再生を手がけています。一般企業は事業再生に直面することはあまりないかもしれません。しかし組織を活性化するという事業再生の要素は一般企業の中にも散見するものなので、活用可能なものだと考えています。
その意味から、本日は組織を活性化し、会社をより成長させ、社員に能力をより発揮させるために役立つことについてお伝えしたいと思います。
●過去の成功が新しいものを作る上で組織の足を引っ張っている
まず組織が停滞化するときには何が起こるかということについてです。やはり、成功がその組織の足を引っ張ることがあります。事業再生を見ていると、過去に非常に成功した事業をやめられなかったり、これまでとは全く違う時間感覚や技術、人材を活用しなければいけないのに、かえって枠をはめてしまい、新しいものが育ちにくい環境になってしまったりすることがあります。
もちろん、もともと持っている成功のパターンを生かすからこそ、新しいことに個性が生まれ、その会社らしい勝ち方が生まれるということはあります。しかし、それがうまくいかない場合は、それによって新しいことが生まれないことがあります。
これを防ぐために、何を考えたら良いのでしょうか。この先の人口減少にどう対応し、もはや新興国とは呼べないようになってきた新しい国々や、今また再び成長しようとしている旧来の先進国との競争にどのように勝つことができるかという状況で、「今うまくいっているので、なかなか改革を起こしにくい」という相談を受けることがあります。これからお話しすることが参考になればと思います。
●改革の全体像と将来の姿をスタート時に示す
組織改革をするときには、最初に改革の全体像と将来の姿を示すということが非常に大事なことだと思っています。
なぜかというと、「この道を歩いていって、どこまでこの辛い時間が続くのだろう?」と思うと、最初は非常に高い緊張感のもとでやっていたとしても、人は途中でくじけそうになります。その再生や改革を続けることに、「もしかしたらこの道を進んで行っても何もないのではないか」と疑問を抱いてしまうからです。リーダーは可能な限り、そこでの痛みも含めて、改革の全体像を最初に示すということが重要です。
●痛みを伴う施策は1度で終わらせる
また、痛みを伴う改革は、誰かに辞めてもらったり、事業を売却したり、歴史ある土地やオペレーションをしていた地域を手放すような改革です。これを一度にやるというのがとても大事なことだと思っています。
というのは、少しずつ様子を見ながらやっていこうとすると、社員は「自分たちの事業にもいつかこんなことが起こるのではないか」と疑心暗鬼に陥り、それによって、より良い人材から先に辞めていってしまうことも起こり得ます。
あるいはお客様と交渉するときも、長くお付き合いできないかもしれないと思うと、やはり提案の良さが変わってくることもあります。そのため、こうしたことは一度にやるのが大事だと思っています。
●事業の売却や撤退は迷ったときに決断すべき
加えてよくあるのが、あまりうまくいっておらず、グループ全体の今後の方向性を考えると、過去は非常に素晴らしい中核事業だったが、これからは中核ではなくなる事業について、売却したりやめることをためらうことがあります。
こうした事業の場合、最初に売却をしようと思った時にするのが一番良いと考えています。なぜなら「やろうかな、やらないでおこうかな」と考えている事業に対して、経営はどうしても資源を十分に配分することができません。そうすると、その事業の競争力はどんどん失われていき、競争相手に勝てなくなってしまいます。
そうすると、その事業の価値が1年前、2年前よりも毀損していきます。毀損していくと諦めがつくため、売却しよう、やめようとなります。しかしそのときには、その事業を引き取ってくれる相手にとっては、より価値のない事業になるため、売却の価格も低くなってしまいます。あるいはより多くの人に辞めていただかないととても引き取れない、ということも起こり得ます。
そういうことになるのが見えているので、やはり最初に「どうしようかな」と思った時に、新たに引き受けてくれる人を探すことが重要です。長く馴染みのある会社を離れる寂しさというものはありますが、その事業をやっている人にとっても、その方がより飛躍のきっかけをつかめます。
●早い売却決定が功を奏することもある
私の経験でも、ある地域から大切にしていただいている中で運営をしてい...