東京大空襲と私
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
全国に広がった「空襲を記録する会」の運動
東京大空襲と私(2)「空襲を記録する会」と戦災誌の編纂
早乙女勝元(元東京大空襲・戦災資料センター名誉館長/作家)
一面の焼け野原から出発した東京の復興を後押ししたのは、1950年の朝鮮戦争勃発に伴う特需景気である。しかし、横田や入間の米軍基地から飛び立つB-29の行く手に、民間人の多大な被害が待っていることはあまりに明らかだ。苦渋の中、東京大空襲・戦災資料センター館長で作家の早乙女勝元氏は「生い立ちの記」として小説を書き始める。それが、空襲記録運動の始まりとなる。(全3話中第2話)
※撮影協力:東京大空襲・戦災資料センター
時間:11分41秒
収録日:2018年3月26日
追加日:2018年8月1日
≪全文≫

●戦後5年、東京の空にB-29が帰ってきた


 戦後、私は昭和21(1946)年に国民学校高等科を卒業して、町工場に働くようになりましたので、学歴は中卒でしかありません。自分で自分がかわいそうに思える青春の中で、とにかく読むことは好きでした。だから、廃品回収業の友達の家へ行っては、バラバラになった『少年倶楽部』などを拾い集めてきてはむさぼり読んで、活字に親しむことを覚えます。そこから文章書きになりたいなという気持ちに駆られました。

 そして、17歳から18歳にかけて、私がどうしても書いておかねばならない状況が必然的にやってきました。それは昭和25年に始まる朝鮮戦争です。もちろん、日本が手出しをした戦争ではありません。日本は連合国軍の占領下にあったからです。

 連合国軍といっても、主体は全部アメリカ軍です。在日米軍が全て朝鮮半島へ出撃していく中、私が最も気になったのは、あのB-29がマリアナ諸島ではなく、今度は東京の横田、埼玉県の入間などという米軍基地から連日のように朝鮮半島へ爆撃に行く日を迎えたことです。

 その爆撃の下がどうなっているか、容易に想像が付くではありませんか。でも、食うや食わずの時代です。アメリカが戦争をするために必要とする諸物資を本国から取り寄せるゆとりはありませんから、閉鎖状態になっていた日本の軍需工場に発注したことから、「特需景気」というものが巻き起こりました。


●300枚の「生い立ちの記」を書く


 日本はこの特需景気によって、焼け跡、闇市の時代を脱出することになるのです。しかし、B-29の爆撃の下が気になって気になって、何かできることはないかと思い詰めた私は、「そうだ、文章を書くことならできるかもしれない」ということで、今でいう「自分史」を書こうと思いました。

 当時は「生い立ちの記」と呼ばれていましたが、300枚を目標にしました。30枚くらいなら誰でも書けるかもしれませんが、300枚は決して少ない枚数ではありません。当時、私は宮本百合子さんという作家が17歳で『貧しき人々の群』を書いているのを読んだのです。17歳から18歳になりかけていた私は、「彼女がこれだけのものが書けたとするならば、私だってもしかして」という思いで、そう苦労せずに300枚の記録を書き終えました。

 その記録は、戦争中の貧困と食うや食わずの食糧難、その後、生きるか死ぬかの空襲の日々の連続などな...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(1)「無任所大臣」が生まれた経緯
現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる
片山杜秀
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
第二次世界大戦とソ連の真実(1)レーニンの思想的特徴
レーニン演説…革命のため帝国主義の3つの対立を利用せよ
福井義高
戦国合戦の真実(1)兵の動員はこうして行なわれた
戦国時代の兵の動員とは?…無視できない農民の事情
中村彰彦
戦国大名の外交、その舞台裏(1)戦国大名という地域国家
戦国時代とは何か?意外と知らない戦国大名と国衆の関係
丸島和洋
「三国志」の世界とその魅力(1)二つの三国志
三国志の舞台、三国時代はいつの・どんな時代だったのか?
渡邉義浩

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ