●「安全はタダ」の国で、「安全が全て」の国を考える
皆さん、こんにちは。島田晴雄です。今回から3回にわたって、イスラエルについて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。イスラエルという国がどこにあるか、皆さんはご存じですか。どんなイメージを持っておられるでしょうか。
イスラエルは、ユダヤ人の国です。ユダヤ教をつくった民族の国でもあります。中東では、イスラエルをめぐる紛争が最近になってもいろいろ起きています。一方で、イスラエルは科学技術が大変進み、芸術家を輩出するという魅力的な側面もあり、ベンチャー企業が非常に活発というイメージもあります。
なぜイスラエルを、皆さんと一緒に時間を費やして考えるのか。一昔前に『日本人とユダヤ人』というベストセラーがありました。イザヤ・ベンダサンという少々不思議な名前のイスラエル人が書いたことになっていましたが、実は山本七平さんが書きました。山本書店の店主で、大変教養のある著者が、イスラエル人の目を通して日本の分析をした本なのです。
例えば、イスラエル人と日本人は、大変真面目な働き者の民族である点は共通しています。イスラエルは小さな国ですが、日本もそう大きな国ではありません。さまざまな共通項がありますが、非常に大きな違いもあります。安全に対する考え方が全く違うというのが、山本さんの見方でした。「日本では安全はタダだが、イスラエルでは安全が全てだ。ユダヤ人は安全のためにはどんなコストもかける」と書かれているのを読んで、ずいぶん昔ですが「そんなこともあるのか」と、大変強い印象を受けたことを覚えています。
皆さんは現代の方ですから、もっといろいろな情報に触れていますが、改めてここでイスラエルについて考えてみたいと思います。
●世界の一神教の元になったユダヤ教の国イスラエル
イスラエルと日本は真面目な国民性は共通するものの、違った面も非常に多く、全く逆転した立場をとる側面もあります。そういう国が世界にあること、その国をめぐっていろいろな問題が起きていることが理解できると、世界のかなり多くの問題に関する理解の糸口がつかめてくるのではないか。日本とは対極に位置するような国が全く理解できないと、やはり世界を理解することも難しいのではないか。イスラエルを理解することは、われわれが複雑な世界を理解していくうえでとても大切な知的作業ではないか。このように思って、皆さんと3回にわたって考えていくことにしたのです。
どこが違うかというと、まずイスラエルはユダヤ教の国です。ユダヤ教は、世界の一神教の元になった宗教です。世界最大、20数億人の信者を持つと言われるキリスト教は、ユダヤ教から影響を受けた一神教です。このキリスト教を批判してアラビアで成立したのがイスラム教で、一神教というあり方そのものはユダヤ教と同じです。世界の人類史の中で、ユダヤ人は明確な一神教をつくり上げ、その後の世界に非常に大きな影響を持つ民族なのです。
他方、日本は「八百万の神」という伝統ですから多神教と分類されますが、多神教にもいろいろあります。欧米やイスラムの世界を律する一神教を理解するためには、元祖のユダヤ教を理解する必要があり、それをつくったユダヤ人、イスラエルを理解する必要があります。
●首都エルサレムは、世界の紛争の歴史の博物館
イスラエルの首都はエルサレムです。まさに「世界の紛争の歴史の博物館」と呼んでもいい街で、イスラエルのちょうど中心にあります。旧市街にはユダヤ人が3分の1、キリスト教徒も3分の1。イスラム教徒やアルメニアの人たちも住んでいます。
エルサレムに行くと、過去3000年に及ぶさまざまな宝物とともに「ルーイン」と称される廃墟が残っています。それぞれに歴史的な証言とも言うべき、世界史の重要な手掛かりが集まっているのです。今でも三つの宗教の人々が、区域を分けてはいますが共存しています。
世界史をひもとくと、エルサレムは数十年に1回、少なくとも100~200年に1回は支配者が替わっています。世界の紛争の歴史が化石化したような場所です。今はたまたまイスラエルの首都としてユダヤ人の管理・管轄下にありますが、これまでの世界史が凝縮した場所とも言えるでしょう。
●「食うか食われるか」の対立関係が生んだ強硬な国防思想
イスラエルは、周辺諸国との紛争が絶えません。つい最近まで、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いるイスラエルの現政権は、イランのアフムード・アフマディネジャド前大統領に対する核武装疑惑を強く表明していました。イラン側が実戦に使える核兵器やミサイルを持っているはずだという疑念を持ち、イスラエルにはいつでもイラン爆撃の用意はあるという内容です。そのため、オバマ大統領はじめアメリカや世...