近代イスラエルの誕生:その苦闘の背景
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
六日戦争で聖地「嘆きの壁」を回復したユダヤ民族
近代イスラエルの誕生:その苦闘の背景(2)
歴史と社会
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
近代イスラエル史の後編では、建国以後の状況に触れる。欧州列強に翻弄されたユダヤ人がイスラエルを建国したのは1948年5月14日。しかし、国をつくればそれで安泰というわけではない。納得しない周辺諸国との度重なる紛争によりパレスチナ問題が国際的課題となっていく経緯を、順を追って見ていきたい。(全5話中第3話目)
時間:12分46秒
収録日:2013年10月4日
追加日:2014年7月24日
≪全文≫

●圧倒的な機動力と危機感が生んだ「イスラエル建国」


 1948年5月14日、ダヴィド・ベン=グリオンがイスラエル建国を宣言します。前年に得た国際連合決議を実現すべく、イギリス軍撤退を翌日に控えた一瞬の隙を捉え、テルアビブの博物館にシオニストが集合。彼らの象徴的存在テオドール・ヘルツルの肖像を背景にしての独立宣言でした。この中で、新国家「イスラエル」はユダヤ国家であり、民主主義国家であることが規定されました。

 パレスチナでのベン=グリオンらの動きはたいへん素早く、違法難民も含む移民の殺到する勢いを使い、国際情勢の混乱に乗じて、その一瞬の虚を突いた独立宣言でした。ここまでしなければ、近代イスラエルは成立しなかったということなのかもしれません。「信じられるのは自分たちの力だけ」「他の民族や国に期待しても、騙されて迫害が続くだけなので、自分たちの力でやる以外にない」。ベン=グリオン以下、集合したメンバーは、非常に強い強固な意志をここで確認していると思います。

 現在も続く「先制攻撃しなければ殺されてしまう」という深刻な状況認識に直結した考えです。なぜそこまで強く深い認識を持たざるを得なかったかを問うならば、ナチス・ドイツによって600万人のユダヤ人が意図的に殺害されたホロコースト事件を考えざるを得ません。近代イスラエル国家成立の起点には、巨大なトラウマが影を落としているのです。


●第一次中東戦争とパレスチナ難民問題


 しかし、隣国も黙ってはいません。翌日にはエジプト、ヨルダン、シリア、レバノン、イラクの国々が一斉に蜂起して連合軍数万人がイスラエルを取り囲みます。イスラエル側も必死に応戦し、民兵から正式の国防軍になっていたハガナーを主力部隊に、さまざまな勢力と武器を集めて、決死の覚悟で戦う。結局ぎりぎりのところでイスラエルは隣国の攻撃を抑え、第一次中東戦争に勝利します。

 この戦争でイスラエル国内に住んでいたパレスチナ人の多くが難民となります。相次ぐテロやこの戦争によって住居から追放されたり、攻撃の恐怖から逃れて難民となる人々が大量に発生したからです。国境周辺には多数のキャンプが張られ、生活環境の崩壊など厳しい状況を生みます。「パレスチナ難民問題」と呼ばれる深刻な蓄積の元となるわけです。

 独立宣言直後に勃発し、成立したばかりの国を死守した第一次中...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
イスラエルの歴史、民族の離散と迫害(1)前編
古代イスラエルの歴史…メサイア信仰とユダヤ人の離散
島田晴雄
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹

人気の講義ランキングTOP10
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
人間はどうやって「理解する」のか?『学力喪失』から考える
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策
軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか
上杉勇司
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
仕事をするのに「年齢」は関係ない…不幸を招く定年型思考
出口治明
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか
水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発
川口淳一郎
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
編集部ラジオ2025(23)垂秀夫元中国大使が語る習近平中国
垂秀夫元中国大使に習近平中国と米中関係の実態を聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
大人の学び~発展しつづける人生のために(1)「Unlearn(アンラーン)」とは何か
見方を変える!生き方を変える!そのためのアンラーン
為末大