●がん対策の遅れと「がん対策加速化プラン」
成果はそれなりに現れています。しかし、がんの死亡率が10年で20パーセント減少にはいかないということは、もうはっきりと言えるようになりました。ですから、第2期の2016年~2017年頃には、10年たつけれど結局は計画倒れに近いのではないか、大変なことだ、といわれるようになりました。
そのような時に、わが国はがん対策とは言うもののやはり遅れているのではないのか、ということで、安倍晋三総理大臣からがん対策の加速化を考えたらどうかと提案されました。
2015年(平成27年)6月1日に「がんサミット」が開催されました。その席で安倍総理が、何とか加速するようにと言われました。そこで、「がん対策加速化プラン」が2015年に行われました。
2017年(平成29年)が、がん対策推進基本計画が進められて10年目になります。その時期までに遅れているものを何とかするように、ということですが、それほど簡単に、遅れているものが急にどんどん進むというような種類のものではありません。そこで対策を何とかしようということが話題になり始めたのです。
●生存率の高まりと下がらないがんの死亡率
そこで、医療にしろ、社会的な問題にしろ、さまざまなものが皆それなりに動いて前に進んでいるといいつつも、がんの死亡率が思うように下がらないというのはどういうことなのか、ということを考えざるを得ませんでした。
その時に話題になったのはどういうことか。がんにかかった人が治療して、5年生存率、あるいは10年生存率を見てみると、成績はだんだん良くなっています。ですから、医療は進んでだんだん良くなっており、生存率も少しずつ伸びているのです。
けれども、生存率というのは、がんにかかった人が治療してどれだけ生存できるかということです。ですから、治療をちゃんとしたらこうなりますよ、ということです。ということは、がん死亡率とは、がん患者さんではなく、国民全体当たりのがんで亡くなる人の割合ということになったのです。
そうなると、分母は国民全体で、がんになった人を上手に治療して長生きできるようにしたとしても、がんにかかる人がどんどん増えたらどうなるか。治療はうまくいっているのです。しかし、がんの発症率がどんどん上がったら、人口分のがんで亡くなる人というのは増えるわけです。ですから、そこのポイントが、あまりうまくいかなかったかもしれないというようなことになります。
そういった意味で、わが国のがんの罹患率、つまりがんにかかる確率はどうなのか。わが国のがんの死亡率という非常に簡単なところからいいますと、1981年を境に脳卒中を超えて上がり出して、今どんどんと上がり続けているということなのです。
●少子高齢化ががんの死亡率に与える影響
けれども、これには実は裏があります。がんで死亡する人がどんどん増えている一方で、日本でがんがどんどん増えているかというと必ずしもそうではありません。では、何が影響しているか。年を取れば取るほどがんにかかりやすくなります。それは皆、知っています。
そうすると、年寄りが増えれば当然、がんにかかる人が増えます。ですから今はもう、ものすごくわが国で年寄りが増えて、若い者が減っているというような状態ですから、がんで死亡する人の割合を、国民当たりで見ると当然、高くなるわけです。
ですから、そういったことを統計学的に処理するためには、がんになった人ということだけでは駄目で、ある一定の年齢構成、要するに、比べようとする時代の年齢構成と仮に同じような構成だったとしたら、死亡率がどうなのかというように、年齢を調整する必要があります。
そこで、年齢調整死亡率を見比べてみると、こちらの図のように、1965~1966年頃から下がりつつあります。つまり右肩下がりになっているのです。実は、年齢調整をすると死亡率は下がっているということから、今現状でがん患者が増え続けているというよりも、その大半は高齢社会が進んでいるのでこのようになっているということができます。これにはなるほどと、納得できるところがあります。
ですから、そういう意味で死亡率のことを考えようとすると、どのくらいの人ががんにかかり、どうなっていくのかというようなことを考えた上での死亡率を計算していかなければならないということが分かってきました。
●なかなか下がらない喫煙率
そのように考えていくと、10年で20パーセント下...