●日本企業の「稼ぐ力」の弱さが問題だ
経済産業省の中に“日本の「稼ぐ力」創出研究会”というものができまして、縁あって座長を務めています。最近は、この研究会だけでなく、政府のさまざまな文書やマスコミの議論にも「稼ぐ力」という言葉が普通名詞のように出てくるようになりました。この稼ぐ力が、これからの日本の産業や経済のあり方を考えるとき、重要な鍵になりつつあります。
稼ぐ力の話をする前に、アベノミクスの現在のステージについて一言申し上げたいと思います。2012年の暮れに第二次安倍内閣が発足して、最初の1年間は金融と財政のマクロ経済政策によって経済を活性化させてきました。それは一応成功したと思われますが、今後持続的に経済を回復させるには、やはり民間主導の経済拡大が必要です。需要サイドでは消費、投資、場合によっては輸出が順調に拡大していくこと、供給サイドでは、需要の順調な拡大に対応できるよう、供給能力を高めていくことが欠かせません。
そこで注目が集まっているのが、経済の好循環を持続する上で、現在の日本の企業セクターが本当に好ましい形なのかどうかということです。これまでは政策がどうあるべきかに議論が集中していましたが、「敵は本能寺にあり」と言いますか、今では多くの人がポイントは民間企業にあると気付き始めています。一言で言って、日本の企業は稼ぐ力が非常に弱い。このような状態を放置したままでは、日本経済が持続的に拡大していくのは難しいのではないか。この点を根本的に修正する必要があるのではないか。そのような疑問を多くの人が持ち始めています。
●資本の効率性と労働生産性をどう高めるかが鍵
日本企業の稼ぐ力が弱いと多くの人が指摘する背景には、いくつかの象徴的なデータがあります。例えば、ROE(株主資本利益率)やPER(株価収益率)を見ると、日本企業はアメリカや欧州の同業企業と比べて低いことが多い。ROEが低いということは、経済学の別の言葉では、資本に対するリターンが低いということ、資本の収益性が低い状態にあるということです。さらに中小企業に至っては、赤字が続いている状況の企業が非常にたくさんあります。これはやはりどこかに大きな問題があるのだと思います。
それからもう一つよく言われるのが、労働生産性の低さです。もちろんこれは産業・企業によってずいぶん状況が異なります。グローバル展開をしている企業の中は、それなりに労働生産性が高いところも多い。しかし、そのような企業であっても、雇用を守るために、いわゆる社内失業者を数多く抱えているのが多くの日本企業の特徴です。彼らを含めて計算すれば、業績好調のグローバル企業なども、労働生産性は必ずしも高くありません。海外との競争にあまりさらされてないサービス関連の業種などの多くの企業は、労働生産性が非常に低いのが現状です。この「低い労働生産性」が、日本企業の稼ぐ力が弱い原因の二つ目です。
資本の効率性と労働生産性をどのように高めるか。この2点が、稼ぐ力向上の大きな鍵となります。どちらも、企業の構造や行動パターンに深く関わる難しい問題です。この二つを高めるには、例えばコーポレートガバナンスの仕組みを変革したり、リスクマネーが増えるよう資本市場を改革するなど、何らかの思い切った行動が必要となるでしょう。また、生産性の低い分野から高い分野へと労働がスムーズに移動できる柔軟な仕組みや、株式会社だけでなく医療法人などの組織も踏まえた倒産・合併時の組織再編の新たな仕組みなども構築しなくてはなりません。
それから、同じ生産性にしても、大都市を拠点にグローバルビジネスを展開する大企業の抱える問題と、人口減少と高齢化が特に激しく進む中で地方の企業が直面している問題には大きな違いがあります。これらを一つひとつ吟味して解決することが、稼ぐ力をつける上で重要です。何か一つの政策を採れば、魔法のように全部が見違えるほど変わるという話ではありません。資本のリターンと労働生産性を高めるためにどのような改革が必要か、一つひとつチェックしていくことが求められています。
●日本企業の儲かるパターンを研究することが重要
“日本の「稼ぐ力」創出研究会”が議論している最中の改革案には、アベノミクスで行われているさまざまな成長戦略と重なる部分もありますが、これまであまり議論されておらず、深く掘り下げなくてはならないテーマも数多くあります。いずれにしても、今後さらなる議論の展開が期待されることばかりです。その代表的なものをいくつか紹介させていただきたいと思います。
一つは、資本の生産性の話です。これについては、コーポレートガバナンスの改革が重要です。結局のところ、企業がリターンを上げるためにどのような点を変えていかなくては...