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人類をつくった哲学や宗教が崩壊してしまった現代

崇高と松下幸之助(1)崩壊した哲学、宗教、国家

情報・テキスト
世界で一番頭が良いと言われているマルクス・ガブリエルの考え方は、間違っているのか。また、我々の宗教への理解は間違っているのか。人間と哲学、宗教、国家との歴史的な関わりを紐解きながら「崩壊した哲学、宗教、国家」の真の意味に迫る。(全8話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(公益財団法人松下政経塾 副理事長)
時間:12:10
収録日:2019/02/06
追加日:2019/04/05
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≪全文≫

●絶対善・絶対悪はない


執行 僕はとにかく、死ぬほど本を読み込んできたことだけが自慢なのです。哲学者というほどではないですが、とにかく好きだからいろいろな哲学者を見ていますと、これからの哲学にはどういうものが必要かということが分かります。感覚ですが。

 最近の最も新しい人だと、マルクス・ガブリエルという人が、「新実在論」を唱えていて、テレビでちょうどやっていたのを偶然見ましたが、あれにはまさに「現代人」たるものを感じました。現代人は偉そうなことを言っていますが、本当に何か人生そのものからくる定見が失われています。彼はいま世界で一番頭が良いと言われている哲学者らしいのですが、「新実在論」は理論としては、固定概念は全部駄目であるというようなものです。実在は存在しません。我々が持っているコップも、実際には、我々が存在を規定して「物」として見ているから見えますが、立場を変えれば、これは今量子力学で証明されているが、存在していないという理論です。

 ところが、ナチスとヒトラーの話になった瞬間に「あれはもう絶対に駄目だ」「ナチスとヒトラーは、人種差別で、あれを認めたら、人間は終わりだ」と言うのです。これ以上の固定観念はありません。全ての固定観念を捨てなければならないという、今世界で有名らしい哲学者が「ナチスは絶対に駄目」と言っています。これに僕は現代人の何か、グローバル化された「脳」を感じました。

 ナチス、ヒトラー絶対駄目ということです。それに関連しているのが、「経済成長絶対善」です。「経済成長絶対善」というのは、もちろんお分かりの通りユダヤ的な発想で、英米が牽引している一つの思想だったのです。しかしこれが絶対善になると、ナチスとヒトラーは絶対悪になります。ガブリエルという人はそれに捉われているところから、全然出ていません。それが今の最も優れた哲学だというのを偶然テレビで見て、びっくりしたのです。あれほど民族的固定観念が強い哲学者はいません。

 僕は直近ではジャック・デリダという人が好きだけれど、彼までの時代は仮にもそのような固定観念を言う人は一人もいませんでした。だから真の哲学も死んだということを、僕は実感的に、ガブリエルから感じたのです。


●『1984』の幕開け


執行 ガブリエルの次に本当に近いうちに世界が終わるのではないかと思うのは、やっぱり宗教が全部死んだということですね。本来「嫌み」や「嫌がらせ」の役割を果たしていたのが宗教だった。つまり嫌われて嫌がらせをするのが宗教でした。今の宗教を見てみるとカトリック教会から仏教界まで全て「現世肯定」です。人間の幸福と経済的豊かさを皆、礼賛しています。全ての人間がすばらしいというように。

 宗教の根本は、仏教もキリストも人間というのは今のままでは駄目だというメッセージでした。だからもっと高尚なものに憧れたり、何か神に許しを求めたりと、このようなことをしなくてはならないのがもともと宗教でした。これが無くなったことと、哲学が無くなりました。だから宗教と哲学がなくなったなら、極端にいうと人類が人類であることをやめる危険性があります。宗教と哲学が、今のホモ・サピエンスの人類をつくったのですが、僕はそれの終焉を感じます。現代は大変なところに突入している訳です。

―― 言う通りですね。グローバリゼーションとITによってみんな考え方が同じになってきているということですね。ジョージ・オーウェルの『1984』みたいな終末の時代が始まっている訳ですね。

執行 間違いなく、『1984』のその時代になっています。スマホやスクリーンの話ですよね。良い悪いではなく、間違いなくその時代になっています。ジョージ・オーウェルの時代でも既に始まっていたのですが、その当時に読んだ人はそんなこと誰も信じませんでしたが、今はまさにあの「ビッグ・ブラザー」の命令で皆動いています。今の「ビッグ・ブラザー」は金正恩みたいな独裁者ではなくて、誰でも言いますが、マスコミの情報により動いているというのが、「ビッグ・ブラザー」に言われて動いているということと、なんら変わりは無いです。僕は、マスコミは現代の「ビッグ・ブラザー」だと思っています。

 政治家だってマスコミにゴマを擦って生きているだけです。今の政治家はみんな「芸能人」と言えます。マスコミが気になるなら芸能人です。芸能人が悪いと言っているのではなく、本当の芸能人はそういう仕事なのです。人気だけがその人の力です。しかしいまの政治家は一歩間違えれば、みな人気取りの芸能人に成ってしまいます。

―― 財界人も矜持のある人はほとんどいなくなりました。

執行 それはほとんどいないですね。まず自分でやっている実業家がいません。今は財界人というけれども、僕みたいな実業家から見れば皆、...
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