●絶対善・絶対悪はない
執行 僕はとにかく、死ぬほど本を読み込んできたことだけが自慢なのです。哲学者というほどではないですが、とにかく好きだからいろいろな哲学者を見ていますと、これからの哲学にはどういうものが必要かということが分かります。感覚ですが。
最近の最も新しい人だと、マルクス・ガブリエルという人が、「新実在論」を唱えていて、テレビでちょうどやっていたのを偶然見ましたが、あれにはまさに「現代人」たるものを感じました。現代人は偉そうなことを言っていますが、本当に何か人生そのものからくる定見が失われています。彼はいま世界で一番頭が良いと言われている哲学者らしいのですが、「新実在論」は理論としては、固定概念は全部駄目であるというようなものです。実在は存在しません。我々が持っているコップも、実際には、我々が存在を規定して「物」として見ているから見えますが、立場を変えれば、これは今量子力学で証明されているが、存在していないという理論です。
ところが、ナチスとヒトラーの話になった瞬間に「あれはもう絶対に駄目だ」「ナチスとヒトラーは、人種差別で、あれを認めたら、人間は終わりだ」と言うのです。これ以上の固定観念はありません。全ての固定観念を捨てなければならないという、今世界で有名らしい哲学者が「ナチスは絶対に駄目」と言っています。これに僕は現代人の何か、グローバル化された「脳」を感じました。
ナチス、ヒトラー絶対駄目ということです。それに関連しているのが、「経済成長絶対善」です。「経済成長絶対善」というのは、もちろんお分かりの通りユダヤ的な発想で、英米が牽引している一つの思想だったのです。しかしこれが絶対善になると、ナチスとヒトラーは絶対悪になります。ガブリエルという人はそれに捉われているところから、全然出ていません。それが今の最も優れた哲学だというのを偶然テレビで見て、びっくりしたのです。あれほど民族的固定観念が強い哲学者はいません。
僕は直近ではジャック・デリダという人が好きだけれど、彼までの時代は仮にもそのような固定観念を言う人は一人もいませんでした。だから真の哲学も死んだということを、僕は実感的に、ガブリエルから感じたのです。
●『1984』の幕開け
執行 ガブリエルの次に本当に近いうちに世界が終わるのではないかと思うのは、やっぱり宗教が...