「平和のための連合体」ははたして可能なのか。今回は会場からの複数の質問に答えていく質疑応答編。現代社会において「平和のための連合体」が実現していないとするなら、障害となっているものは何か。あるいは今後、理想的な連合体が出現する可能性はあるのか、などについて、川出氏が自身の考えを述べる。(2025年8月2日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第7話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●外部勢力の攻撃によって世界はまとまるのか
【質問】
平和の実現に関して、人類の力ではどうにもならない、例えば宇宙人のような外部勢力が攻めてくるというのであれば、世界はまとまると思いますか。
川出 確かにこれまでの歴史の流れということでいえば、対立していた諸勢力が外からの攻撃を経て1つにまとまるということは(あります)。まさに日本の開国ではあれほど内部で分裂していたのが1つに急速にまとまった。こういうことはあると思います。そもそも国民国家が成立するときに、なぜフランス革命が重要なのかというと、ナポレオンが登場し、それで内部で対立しても仕方がない、という話になってくるわけですね。
ただ、そういう形で1つにまとまっても結局それは、今までの問題を外部に転嫁するだけであって、新たな敵に対して立ち向かうということなので、基本的にはリアリストの議論の延長線上にあるのかなと思います。
だから、宇宙人が来ないという前提でいうならば、やはり外部に敵を設けることなく、むしろポジティブに自分たちが大きな共同体の中の一員として義務を果たしていく。ただ、カントを持ち出して義務云々と言っていますが、私は、それはそれほど大きな義務ではないと思います。
先ほどEUはやりすぎだという話をしたのは、例えば食品添加物といったものは、多少体に悪くても、食べたいと思う人たちの自由を別に認めてもいいのではないか。そんなところまで統一する必要があるのか。そういう多様性が認められる領域はあると思うのです。
ただ、戦争と平和の問題でいうならば、「紛争を武力で解決するのはとても無益である」というポイントに絞っていうならば、コンセンサスが得られる。つまり人類に対する義務として、自分とは言葉も文化も違う国民であっても、武力を使ってその命を奪うということだけはやってはいけないという形に置き換えればいい。
そこに、なんでもかんでもみんな1つ、価値は1つ、人権は1つ(この人権も少し難しいところはあるのですが)と、そこまで広げてしまうと無力になってしまう。だから、いろいろな国際機関やEUは、あまり欲張らないほうがいいのではないか。本当に肝心な目的だけに特化するのであれば、わりとうまくいくのではないか。
サン=ピエールの議論は、そういうところが面白い。「戦争をしなければみんな得になるよね。だからそこだけ...