現代では「国際連合」や「EU」などが実際に出来上がり、運営されている。これは、これまで本講義で見てきた思想家・哲学者たちが構想したものが「具現化」した姿とも考えられる。しかし昨今、国連やEUのあり方に反発する動きも目立ってきている。また、連邦国家アメリカでもトランプ政権が理想主義的な理念を覆していく動きを見せている。これら現在の「連合体」の不具合の原因、また平和的な組織をつくるために必要なことは何かについて今一度、考える。(2025年8月2日開催:早稲田大学Life Redesign College〈LRC〉講座より、全7話中第6話)
※司会者:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●なぜEU批判が強まっているのか――フレキシブルな制度設計の必要性
―― まず私から質問させていただければと思います。
まさに今、いろいろとご紹介いただきましたが、サン=ピエールをはじめ、カント、ルソーが夢見たような組織も、ある意味ではできてきた現代は、実際、国際連合が今機能しているという社会です。またEU(ヨーロッパ連合)も実際に、連合として機能している。
ただ、最近のヨーロッパの選挙などでは、いわゆる「右派政党」と呼ばれる、そういう動きに反発するような人たちが相当議席を取ってきているという状況もある。民主主義体制の国と、「国家連合」というものを見た場合に、「本当に国家連合でいいのか。これはわれわれのむしろ不幸せの元ではないか」という意見も強くなっているように思います。ここは、先生はどう見ておられますか。
川出 はい、ありがとうございます。まさに本質的な問題です。なぜあれほどEUが嫌われてしまったのか。少し前までは、アジア圏でもEUのようなものをつくればうまくいくのではないかという話もしていたのですが、今や本家本元のEUが非常に批判されてしまっている。
私は専門家ではないので、これは1つ感想に過ぎないのですが、EUは組織として、理想主義といえばいいのか、原理主義的なところがありすぎてしまっている。批判する人たちが台頭する気持ちも分からなくはないという部分があるのです。
―― どのあたりが原理主義的ですか。
川出 EUはアメリカと比べると不思議なところがある。アメリカはなんだかんだいっても、州の権限が大きいのです。例えば、税金は州によって違う。もっと有名なのが死刑制度です。あのような根幹的なことが州によって違う。意外と州の自律性が高いのです。その代わりにアメリカは、連邦政府の機能としては安保・外交です。このことに関して、州は全然口出しできないという形なのです。
ところがEUは、比較すると少し奇妙です。国内のいろいろな政策――典型的には労働者の移動の自由、EU外からの移民の受け入れなど――に関してはEU法が優位する。国内でいくら反対しても、EU法がそれを決めてしまったら従わなければならない。あと、例えば環境問題や消費者法、食品添加物といった問題に関しても、EU法が制定してしまうと、国内法はそれに従わなければいけないという感じです。
ところが奇妙なことに、安保・外交...