●人間よりもAI
執行 僕がみんなに言っているのは、松下幸之助というのは、優れていて、頭が良くて、面白い。これは決まっていることです。その決まっていることを、理解する能力がないというのが、現代人の傲慢さなのです。だから表面の言葉に惑わされるのです。これだけの事業は誰も創れません。では、どうして創ることができたかといえば、頭がいいからです。そういう簡単な英知が現代人にはありません。そのため表面上の言葉に惑わされるのです。だから滅びるでしょう。これが人間ではなくて、AIならすぐに答えられます。
―― ずば抜けて賢くなければこんなことできるわけができるわけありません。しかも一回、五十歳のときに焼野原にされている訳です。
執行 それを言っています。それをなるべく分かるように『悲願へ―松下幸之助と現代―』(PHP研究所)を書いています。そのとてつもなく頭がいい人が、宗教心が好きだったのです。ということは、宗教心が非常に正しいということです。(松下の根幹です。)そう捉えないことには、駄目だということです。それが分からなければ現代人は脳が腐っています。
この間テレビでAIについてやっていたが、AIを扱った人気になった健康番組で、AIに健康に一番いいのは何かを問うたら「読書」と答えを出しました。しかし読書が健康にいいとは誰も思っていません。だったら読書をするための「好奇心がいいのだろう」ということや「読書をするために本を探して、歩くことがいいのではないか」ということなど、いろんなこと(回答と違うこと)を皆が喋っています。人間の方は頭が腐っています。要するに、統計学上、読書がいいとなったら、読書がいいのです。そのように捉えられなくなっています。
AIについて勉強すると、現代人が腐っているのが分かる。僕が見ていると、AIのほうが、ずっと人間的です。原始キリスト教に近いです。AIというのは、人類の根源に近いものがあると僕は思っています。「人間とは何か」と質問すると、たぶんAIの答えは、「命よりも大切なものがある」ということや「自分の命よりも大切なものに命を投げ出せないなら、人間ではない」と、答えが出ると思います。僕と同じです。僕はAIみたいだからです。僕はわりと原始と結びついていますから。まさに原始キリスト教です。AIについて何度か考えることがあったが、大体においてAIが正しい。しかし、現代人はそれを認めることができません。
僕は皆に、人間的に生きるために、不幸になるように薦めています。「不幸になれ」、とみんなに言っていますが、今の人は、「分かりました。不幸になった方が、幸せになれるのですね」と言うのです。
これは脳が犯されている、ということです。僕は武士道の意味で言っています。武士道とは、不幸になる気がなければ、絶対に分かりません。僕は武士道で育っているので、不幸になる気は満々です。だけど、今の人はみんな「不幸になると幸福になれるのですね」と言うのです。そのくらい現代的幸福観に犯されているのです。
要するに幸福が絶対にいいと思い込んでしまっています。だって幸福とお金などは、戦後社会が経済成長のために国民を躍らせるための詐術に決まっているのにです。
―― しかも今はもう、それも持たなくなってきています。もう崩壊寸前のところまできています。
執行 そうです。全然駄目です。崩壊寸前といいますか、もう崩壊しています。あとは形としてどうなるかです。中国がいつやるか、それこそアメリカの財政や、中国の財政や、もう実際は崩壊しています。
―― ただ、そう見せないように技法があります。
執行 今はインターネットの発達で、情報操作で、あっちの穴を塞ぎ、こっちの穴を塞ぐのがうまいです。世界中が今そうやっているという状態です。あれがどこまで行くのかは僕も分かりません。
●『葉隠』と執行草舟
執行 我々が喋っていることは今では全部が英米思想です。違うことを言うのは、僕など、ごく少数です。幸福論もそうです。あれは全部キリスト教原理主義から出た英米思想です。幸福を全面に押し出すという文化です。
昔の武士道の日本社会では、「幸福になりたい」ということなどは、少なくとも男は恥ずかしくて、死んでも口にできませんでした。
―― 確かに、幸福になりたい、好かれたいと思わなければ、かなり綺麗に物が見えるようになりますよね。
執行 僕の強みはそれです。それだけをかなり自慢しています。僕は偶然武士道が好きだったので、そこだけは犯されませんでした。だから現代的な欲はあまりありません。
成功したい、幸福になりたいと思っていないのです。自慢としているところは、小学校の頃から、友達が欲しいとも思っていません。人に好かれたいとも全く思ったことがありません。女性にモテたいなどは問...