●軍隊の中で庶民に伝えられた武士道精神
―― 本村先生にはテンミニッツTVで「独裁と世界史」というお話もいただいています。ローマの共和政時代、元老院に入るような貴族階級の伝統というお話でしたが、「父祖の遺風」はやはり主に貴族階級が持っていたという認識でよろしいわけでしょうか。
本村 そうですね。公事の担い手は、そういう階層の人たちだったわけです。庶民レベルで父祖の遺風といっても、先祖をどれだけさかのぼれるかは分かりません。庶民レベルでは、そこまでは行っていないと思います。
日本の場合、武士の中に武士道的なものがあったのは、明治維新の後の日本が富国強兵を通して創り上げていった軍国主義のいい面になったのではないかと思います。(軍国主義は)全面的に否定することではなく、武士道的なものが軍隊の中では、いい面で受け継がれていったのではないでしょうか。
かたやローマの場合、父祖の遺風がローマ軍の中で受け継がれるということは、あまりなかったのではないかと私は思います。日本の軍国主義が良かったかどうかは、結果論としては否定しなければいけないけれども、人間の生き方として、(武士道的な)面を庶民レベルまで広げたという意味で、ある種の役割を果たしたのではないかという気がします。
●武士道と「父祖の遺風」の共通点に通じる「家の名誉」
―― 武士道と父祖の遺風の共通点をいうとすると、今、規則ということがありましたが、武士道も家に対する誇りですよね。例えば本村先生であれば本村家をどうするのか、ということになります。おそらく元老院貴族の家でも、例えばカトー家ならカトー家をどうするかだったでしょう。家をどう隆盛して、家の歴史を思いながら、自分が継いできた者としてそこに立つときにこれをよりいいものとして自分の子孫につなげなければいけないという意識が、武士道と父祖の遺風に共通しているのかという感じを持ちました。
本村 そうですね。家をどんどん盛り立てていくというよりも家の名誉を汚さないというのが、非常に共通しているところではないかと思います。汚さないためには、自分も先祖に負けないぐらいの仕事をしなければいけないことになる。ただ名誉を守っていればいいというのではなく、それに匹敵するだけの名誉を上げなければいけない。そこが、やはり共通するところだと思います。
―― 「あなたのおじい...