江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
源平の合戦、熊谷次郎直実の伝承にみたローマ建国の精神
江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道(5)勇者の務め
歴史と社会
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
一ノ谷における平敦盛と源氏の熊谷次郎直実の一騎打ちは、『平家物語』「敦盛最期」の段、能や幸若舞の『敦盛』として日本人には馴染み深いものである。新渡戸稲造は『武士道』において、この伝承をローマ建国の精神に響く「敗者への憐憫」に重ねて西洋人に伝えた。そして、名誉を守るための責任の取り方として、武士の切腹にも似た行為が古代ローマでも行われていたという。(全6話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分25秒
収録日:2021年7月16日
追加日:2022年12月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローマ建国の精神と敗者に対する仁愛


本村 (『武士道』におけるローマの記述は)いろいろなところにあります。一つは、ローマの詩人のヴェルギリウスがローマ建国の精神を次のように謳ったことです。

 「敗れたる者を安んじ
 逆らう者をくじいて
 平和の道を立てることこそ
 汝の業なれ」

 つまり、敗れた者に対しては非常な憐憫の情をかけて、それでも逆らう者に対してそれはある程度くじかなければいけない。そういう中で「平和の道を立てることこそ汝の業なれ」とローマ建国の精神を讃えています。

 新渡戸稲造はこの詩(詩の部分はラテン語で書かれています)を読み、「この詩を日本の紳士が読めば、あるいはわが国文学の中から、ひそかに盗んできた語句であると思うかもしれない」と言っています。「弱者、劣者、敗者に対する仁愛は、武士の美徳として特に賞賛された」というぐらい、同じ精神があったからです。


●新渡戸稲造が引いた熊谷次郎直実の伝承


本村 この時に取り上げられたのは、源氏の熊谷次郎直実の話です。「かつてその名を聞くだけで、人々に恐れられた」源氏の熊谷次郎直実について、以下のように記述されています。

 「わが国の歴史上、最も決定的な合戦の一つ、源氏と平家が須磨の浦で戦ったときのことである。この猛将は、敵を追いかけ、そのたくましい腕で組み伏せた。このような場合には、相手が名高い武将か、自分と力量が劣らぬ剛の者でなければ、血を流さないことが戦場での作法であったので、彼は自分の名を名乗り、相手の名を知ろうとした。」

 「しかし相手はそれを拒んだので、その兜をおしあげてみると、まだ髭もない顔立ちの美しい若武者であった。彼は驚いて腕をゆるめ、抱き起こして、『助けてまいらせよう。そなたの母のもとへ行け。熊谷の刃は、そなたのような者の血に染めたくない。敵に見とがめられぬ間に、早く逃げのびたまえ』と言った。」

 この場合、「敵」というのは熊谷にとって味方ですが、早く逃げろと言ってやるわけです。

 「しかし、この若武者は逃げることをこばみ、双方の名誉のため、この場で自分の首をはねるよう熊谷に頼んだ。」

 「熊谷は、幾人もの敵の生命を断った刀を白髪頭の上にふりかざしたが、今日の初陣に先駆けしてい...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
寛政の改革・学問吟味と現代の教育改革(1)学問吟味の導入と正統性の問題
松平定信のもう一つの功績「学問吟味」の画期性に注目
中島隆博
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治