江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道
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源平の合戦、熊谷次郎直実の伝承にみたローマ建国の精神
江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道(5)勇者の務め
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
一ノ谷における平敦盛と源氏の熊谷次郎直実の一騎打ちは、『平家物語』「敦盛最期」の段、能や幸若舞の『敦盛』として日本人には馴染み深いものである。新渡戸稲造は『武士道』において、この伝承をローマ建国の精神に響く「敗者への憐憫」に重ねて西洋人に伝えた。そして、名誉を守るための責任の取り方として、武士の切腹にも似た行為が古代ローマでも行われていたという。(全6話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分25秒
収録日:2021年7月16日
追加日:2022年12月10日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローマ建国の精神と敗者に対する仁愛


本村 (『武士道』におけるローマの記述は)いろいろなところにあります。一つは、ローマの詩人のヴェルギリウスがローマ建国の精神を次のように謳ったことです。

 「敗れたる者を安んじ
 逆らう者をくじいて
 平和の道を立てることこそ
 汝の業なれ」

 つまり、敗れた者に対しては非常な憐憫の情をかけて、それでも逆らう者に対してそれはある程度くじかなければいけない。そういう中で「平和の道を立てることこそ汝の業なれ」とローマ建国の精神を讃えています。

 新渡戸稲造はこの詩(詩の部分はラテン語で書かれています)を読み、「この詩を日本の紳士が読めば、あるいはわが国文学の中から、ひそかに盗んできた語句であると思うかもしれない」と言っています。「弱者、劣者、敗者に対する仁愛は、武士の美徳として特に賞賛された」というぐらい、同じ精神があったからです。


●新渡戸稲造が引いた熊谷次郎直実の伝承


本村 この時に取り上げられたのは、源氏の熊谷次郎直実の話です。「かつてその名を聞くだけで、人々に恐れられた」源氏の熊谷次郎直実について、以下のように記述されています。

 「わが国の歴史上、最も決定的な合戦の一つ、源氏と平家が須磨の浦で戦ったときのことである。この猛将は、敵を追いかけ、そのたくましい腕で組み伏せた。このような場合には、相手が名高い武将か、自分と力量が劣らぬ剛の者でなければ、血を流さないことが戦場での作法であったので、彼は自分の名を名乗り、相手の名を知ろうとした。」

 「しかし相手はそれを拒んだので、その兜をおしあげてみると、まだ髭もない顔立ちの美しい若武者であった。彼は驚いて腕をゆるめ、抱き起こして、『助けてまいらせよう。そなたの母のもとへ行け。熊谷の刃は、そなたのような者の血に染めたくない。敵に見とがめられぬ間に、早く逃げのびたまえ』と言った。」

 この場合、「敵」というのは熊谷にとって味方ですが、早く逃げろと言ってやるわけです。

 「しかし、この若武者は逃げることをこばみ、双方の名誉のため、この場で自分の首をはねるよう熊谷に頼んだ。」

 「熊谷は、幾人もの敵の生命を断った刀を白髪頭の上にふりかざしたが、今日の初陣に先駆けしてい...

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