●避難3原則で子どもたちに本当に教えたかったこと
子どもたちの行動を考えるときに、まず子どもたちのいた学校は、明治三陸津波の時にも津波が来なかった場所にあります。
そして、ハザードマップの上でも津波が来ないとされているところに学校は建っていました。そして、学校は鉄筋コンクリートの3階建てです。耐震補強も終わっていました。先生方にすれば、外は雪も降っているし、3階に上がりなさいというご指導をなさったわけですが、そこで子どもたちは何を考えたのか。3階に上がると、それ以上の津波が来たら、もう逃げる場所がない。だから、高台に向かうべきだ。これが子どもたちの判断です。まだできることはある。3階に上がったら、それ以上のことはできないという思いの中、子どもたちは高台に向かってくれました。
そして、1つ目の避難所に入るわけですが、普通ならばそこで良しとするところを、まだできることがあるということで、さらなる避難をしてくれました。これでギリギリ命を守ることができたのですが、子どもたちのできる限りのこと全てをやって命を守り抜くという行動は、まさに釜石の子どもたちが生き抜く力を防災教育によって獲得していたから、それが育まれたからだろうと思います。
子どもたちに教えたことは、まず避難の三原則です。三原則で本当に教えたかったことは何かというと、大いなる自然の営みに畏敬の念を持つということです。われわれの想像を絶することを起こし得ることが自然なのだということ。大いなる自然の営みに畏敬の念を持ち、他者に委ねることなく、自分の命を守ることに対して主体的であれと、本当は子どもたちには教えたいわけです。
ところが、小学校の子どもに、「大いなる自然の営みに畏敬の念を持ち…」というのは多少、難しいところもありますので、具体的な行動としてどうしたらいいのかというところに落とし込んだのが、この避難の三原則だったのです。
●避難3原則の一つ目~想定にとらわれるな~
まず原則の一つ目は、「想定にとらわれるな」ということです。ここでいっている想定とは具体的に何かといいますと、具体的にはハザードマップです。
子どもたちにハザードマップを見せますと、「僕ん家はセーフだ。君ん家はアウトだ」と子どもたちは大騒ぎをします。そこで子どもたちに問うのです。「どうして君の家はセーフなのか」と。すると、「だって、ハザードマップの色がついてないもん」というのが子どもたちの答えです。
けれども、ハザードマップは一つのシミュレーションにすぎません。行政の出すものですが、次の津波がハザードマップ通りに来るというのはまずあり得ないことです。時にそれよりも大きい現象があり、時にそれよりも小さい現象があります。
ただ、どのようなことが起こるか分からないといったままでは対策をすることができませんので、この釜石のハザードマップは明治三陸津波、すなわち6,500人のうちの4,000人も亡くなった大津波を対象に、今、もしそれが起きたらどこまで浸水が来るかということでつくられました。
そのような面で、決して想定が甘いわけではありません。ただ、次の津波が明治三陸津波と同じとは限らないわけです。時にもっともっと大きな津波もあり得る。そのときにハザードマップを見て、「俺の家はセーフ、お前の家はアウト」と、こういう判断をしていたのでは間違いなのです。
ですから、相手は自然だ。いかようなこともある。ハザードマップは信じるなと。私は長年にわたってハザードマップの研究もしていますし、日本で最初にハザードマップの研究に着手した研究者だと思っていますが、その私が子どもたちに向かって言ったことは、「ハザードマップを信じるな」です。
しかし、ハザードマップが不要だと言っているわけではありません。ハザードマップは、あまたある自然災害のシナリオの、たった1つのシナリオにすぎない。それにとらわれてしまい、「俺ん家はセーフだ」と判断することが間違いだと言いたかったのです。子どもたちには、ハザードマップは信じるな、想定にとらわれるなというのを第1原則として教えました。そこで教えたかったことは、相手は自然であって、いかようなこともあるということなのです。
●避難3原則の二つ目~最善を尽くせ~
そして、避難3原則の二つ目は、「最善を尽くせ」ということです。相手は自然で、いかようなこともあるということならば、そこにおいてわれわれができることは、ここまで行動を取ればよしということは何もないわけです。今、自分のできる限りの全てのことをやる。これが自然に対する正しい向かい合い方だと私は思います。
ここまでやったから大丈...