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ハザードマップはなぜ十分に活用されていないのか

日本の防災の課題(1)大規模災害の増加とインフラの弊害

片田敏孝
東京大学大学院情報学環 特任教授/群馬大学名誉教授
情報・テキスト
近年、大規模な自然災害が増えている。しかし、災害時にはハザードマップが十分に活用されているとはいえない状況もあるという。それはなぜか。そこにはインフラ整備が進んだことによって生じた、日本の防災の課題があった。(全3話中第1話)
時間:09:49
収録日:2019/03/30
追加日:2019/06/08
タグ:
≪全文≫

●近年大規模な自然災害が増えている


 ここ最近、自然災害が荒ぶる傾向にあります。東日本大震災から、地面の下の災害、例えば火山や地震などの災害が非常に頻発しています。それから気象災害です。これは温暖化に伴うものなのですが、海水温が非常に高いため、膨大な水蒸気量の中、1回でものすごい豪雨になる、もしくは台風が巨大化します。このように、自然災害全体が非常に荒ぶるような状況にあります。

 2018年だけを見ても、まず大阪の北部の地震がありました。6月の中旬のことです。その後、7月に西日本豪雨がありました。広島県では土砂災害で100人を超す方が亡くなり、また岡山県では倉敷を中心に豪雨による洪水で多くの方が亡くなり、全体の犠牲者としても200人をはるかに超えるという、大変な被害でした。

 この豪雨災害の後は40度を超える、いわゆる酷暑といわれるような状況の中で、日本全体が非常に暑い夏となりました。温暖化が非常に進んでおり、このように確かに地上で暮らす状況でも暑いという思いはあるのですが、それは海洋気象の方がはるかに進んでいるといわれ、海水温が非常に高いのです。よって、膨大な水蒸気の中で膨大な雨が降り、そして、台風が巨大化する。そうした傾向が顕著に見られました。

 台風21号が来たのは2018年9月上旬のことです。25年ぶりの強い勢力で、関西空港へ渡る橋のところにタンカーが当たってしまうというような状況がありました。また、その後の台風24号は伊勢湾台風の再来といわれ、驚異的な高潮でした。そして、同じ9月には北海道胆振(いぶり)東部で地震があり、震度7を記録しました。ということで、まさに2018年の1年を見ても本当に災害が多いという状況でした。

 「地象災害」といいますが、地面の下での災害については明らかに荒ぶりが見られ、今、この傾向は世界的にあるように思います。環太平洋全体を見ても、インドネシア辺りでは火山が噴火したり、地震があったり、津波があったりということで、大変な状況になっています。また、中南米でも大きな地震が発生しています。

 こうした点から、日本では「首都直下型の地震」とか「南海トラフ」などといわれていますが、この地面の下の災害については、火山災害も含めて、非常にこれから厳しい状況が続くだろうと考えられます。

 一方、気象災害なのですが、2018年はなんといっても7月豪雨には驚きました。どこからこれだけの雨量の水が来るのかというほどの雨が、西日本を中心にまき散らされたわけです。これは、海洋の海水温が高いことにより膨大な水蒸気量によってもたらされ、ちょうど梅雨前線が高気圧に挟まれて動けないという状態の中、継続的にそこに湿った空気が送り込まれて、これだけの豪雨が起こってしまったということです。

 一説には琵琶湖3杯分とも、4杯分ともいわれる雨量の雨がこの地域に降り注いだわけですけれども、中でも大きな被害が出たのは、洪水という面では岡山県の倉敷市の真備地区です。50人を超す方が、2階の屋根付近まで漬かった中で、水死されました。本当に痛ましいことが起こってしまったのです。


●ハザードマップの利用率、認知率は極めて低かった


 この真備地区では水深が5メートルほどということで、2階にいても逃げ場を失うほどの浸水だったのですが、実はこの浸水の状況は、ハザードマップによってその可能性が事前に住民の皆さんにお伝えしてありました。

 ハザードマップを作成する過程の中でシミュレーションを行うと、この地域には5メートルぐらい漬かるというエリアが広範囲に広がっていました。7月の豪雨でもおおむね、その浸水エリアとハザードマップが重なるというような的中率でした。すなわち、ハザードマップによって事前にお伝えしてあったといってもいいような状況にあったということです。

 しかし、住民の皆さんの声を聞いてみますと、ハザードマップは家にはあるけれども、確認していなかったという方がいたり、ハザードマップは見たけれども、そこまでの浸水になるとは思わなかったという方もいました。そして、そもそもハザードマップのことを知らなかったという人までいるということで、ハザードマップの利用率、認知率は極めて低いものがあったと思います。

 こういう状況の中で、どうして逃げなかったのか、どうしてハザードマップを利用してもらえなかったのかというのは、防災に関わる者としては非常に大きな課題だと捉えています。


●なぜ昔から洪水と共存していた地域で大きな被害が起こったのか


 この地域はもともと高梁川(たかはしがわ)と小田川という二つの大きな河川に挟まれた地域で、昔堤防がなかった、あるいは堤防がしっかりしていなかった時代は、ハザードマップに示されるような5メート...
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