行政との関係構造から考える防災
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
阪神淡路大震災によって露呈した行政主導による防災の限界
行政との関係構造から考える防災(1)行政主導の限界
政治と経済
片田敏孝(群馬大学名誉教授)
日本の防災の基本は、1961年に制定された災害対策基本法から始まった。インフラが整備されていくことで被害者数は大幅に減少したが、その一方で防災に関する住民の行政への依存が進んでいったともいえる。阪神淡路大震災は行政主導による防災の限界を露呈させていた。(全2話中第1話)
時間:9分51秒
収録日:2019年3月30日
追加日:2019年6月15日
カテゴリー:
≪全文≫
 日本の防災の大きな課題は、国民に命を守る主体性が欠落しているということだろうと思います。しかし、日本の社会はどうしてこれだけ命を守ることに対する主体性をなくしてしまったのでしょうか。そして、その一方で、なぜ行政に対する依存度を高めていってしまったのでしょうか。

 ここを正さないと、日本の防災は改善されないでしょう。そこで、行政と国民の関係のもとでこれだけ依存度を高めていってしまった日本の防災、また個人ベースでいうならば、なぜ“逃げない”という構造に陥ってしまったのかについて読み解いてみたいと思います。


●災害対策基本法以後、インフラが整備され災害の被害は減った


 日本の防災の基本は災害対策基本法に規定されています。1959(昭和34)年の伊勢湾台風を契機に、その2年後の1961(昭和36)年に制定された法律が災害対策基本法です。

 この直接的な契機となった伊勢湾台風ですが、名古屋を中心とした地域で高潮災害が中心となり、5,000人を超す方が亡くなるという大災害でした。1959年ですから、まさにこれから日本は高度経済成長、名実ともに先進国入りしようとしている、そのさなかに起こったのがこの伊勢湾台風の被害でした。

 この台風は、日本の防災をこのままでいいのかという大きな問題を投げ掛け、そして、国家の災害対策における基本法の制定に至るという、非常に大きなインパクトを与えたわけです。実はこの伊勢湾台風よりも前の日本の災害というのは、毎年のように、少なからずとも数千人規模で人が亡くなっていました。そうした中、この台風をもって、さすがにこれから先進国入りしようとするときにこれではいけないということで、真摯な反省が行われたということなのです。

 人口およそ1億人のうち、毎年、数千人が亡くなるという社会はとても先進国の体を成しているとはいえません。その原因はどこにあるのか。それは災害大国にして、そのまま被害を受けるような社会構造、つまり決定的なインフラ不足にあったのです。これが毎年のように数千人オーダー(程度)の犠牲者を出すという社会構造になっていたということで、伊勢湾台風を契機に、災害対策基本法が制定され、その法体系をもとにインフラ整備が組まれていったといってもいいと思います。


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博

人気の講義ランキングTOP10
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
世界のジョーク集で考える笑いの手法と精神(1)体制を笑うジョークと諷刺の精神
ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか
早坂隆
未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか
水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発
川口淳一郎
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策
軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか
上杉勇司
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない
仕事をするのに「年齢」は関係ない…不幸を招く定年型思考
出口治明