●火山防災の要は情報収集と情報伝達である
火山防災のために必要なことはまず、火山活動が異常になっているかどうかを的確に認識することです。火山の監視や状況判断の責任は、気象庁が負っているのですが、現在の火山学の実力だけでは全ての現象を事前に把握できるとは限りません。そのため、これから先も火山噴火に関する研究をもっと進めていく必要があります。噴火の様子が少しでも変わると予想できない事態に陥り、犠牲者が出ることもあるので、状況判断能力という点では今の技術はまだ足りていないのです。
次に、火山に何か異常があった際には、その異常をきちんと伝達するということも重要です。そのため、気象庁には迅速に情報を伝えてほしいと思います。しかし、重要なのは気象庁だけではなりません。なぜなら、気象庁は山の近くにいるわけではなく、例えば東京の大手町で御嶽山の様子を計器を使って見ているからです。そのため、山の近くにいる人が異常に気付いたら、それを警察や気象台に迅速に伝えることが重要です。そうすれば、気象庁も新たな観測を展開することもできます。
個人のレベルでは、火山噴火について、正しい知識を持つことが火山防災につながります。火山噴火はめったに起こらないことなので、普通の人は火山についての詳しい知識を持っていないことが多いのです。ですが、いったん起こってしまうと、とんでもない被害につながることがありますから、適切な知識を持っていただきたいと思います。
注意する必要があるのは、前回お見せしたハザードマップのような噴火シナリオが、全くその通りに現実化するわけではないということです。これは。特定の火山現象が特定の地域において被害が及ぶことがある、という例示のようなものなのです。ですから、このハザードマップに書いてある、溶岩流が流れてくる範囲の外側にいれば安全だ、と解釈しないでいただきたいのです。津波のケースでも同様でしたが、浸水域の外側にいるから大丈夫だと思っていたところ、実際には浸水域に津波が襲ってきて、亡くなった方もいました。このように、次の現象が事前に予測できるわけではないので、ハザードマップが全て正しいと思わないことが重要です。
ですから、それぞれの現象に応じて、適切に避難をすることが一番重要です。特に火山に近づくときは、このようなパンフレットを参照していただきたいと思います。これは日本火山学会が用意しているもので、「安全に火山を楽しむために」というものです。火山学会のホームページから、いつでもダウンロードすることができます。この画像は表紙の部分だけが示されていますが、中には突然の噴火に遭遇したとき、どのような対処方法があるのか等も書かれています。
●噴火警戒レベルが低いからといって、安全であると限らない
気象庁が噴火に関して発信する情報の1つに、噴火警戒レベルがあります。この表からもわかる通り、噴火警戒レベルは1から5までの5段階に分かれていて、4~5が住宅地に被害が及ぶ可能性があり、避難や避難準備をする必要があるレベルです。それに対して1~3のレベルは、山頂付近にいる登山客や観光客が被害に遭う場合に相当します。
ですが、警報の種別となるレベル2になっていないからといって安全であると認識してはいけません。レベル1の状態でも、ほとんど前兆なしに噴火は起こることがあり、その場合火口付近は非常に危険だからです。
御嶽山の場合、実際に噴火の前兆が見られたのは、噴火の11分前でした。気象庁が判定しても、いまだどうなるか分からないという状況でした。「何か異常が起こった」ということが判明したのが11分前で、噴火の4分前になっても、「これはどうも怪しい」というシグナルが出てきたような状態でした。
こうした事例からも分かる通り、噴火の様式によっては事前にいろいろな前兆が現れにくいので、レベル1でも水蒸気噴火などが突然起こることがあります。このことは肝に銘じていただきたいのです。例えば、最近地震が増えているという状況が確認された場合、そこには一切近づかないということが最大の防御策だと思います。しかし万一、そういう状況に遭遇してしまったら、とにかく身を守る方法を考えていただきたいと思います。
そのため、警戒レベルとは噴火前に必ず上がるものだ、とは決して思わないでいただきたいです。気象庁も、何か重大な事態を認識したらすぐにレベルを上げるよう、心掛けてはいますが、完全に前兆を掴み上げられるものではありません。
●噴火警戒レベルの含意と解釈に注意する
一般...