●防衛装備はコストを考慮し国際共同開発をすべきだ
―― 日本において国や地方公共団体の契約が競争入札になって以来、企業のサイドからみると、防衛装備のためのさまざまな装備品は、愛国心だけでは不十分になっているように思えます。毎年入札が来るかどうかが分からないという問題があるからです。P3はアメリカから輸入しました。それに対してP4は独自に開発しました。しかしP4は独自開発を行った結果、コストが結果的に3倍になりました。独自ソフトで使いやすくても、コスト的には採算が合わないということが分かりました。他方で、毎年安定して決まるかが分からない入札という状況では、補助部品の供給も潤沢ではありません。こうしたことから分かるように、競争入札の制度は、自衛隊が本来持っている防衛力を削いでいるようにも思えます。
小野寺 私は、防衛装備はやはり、国際共同開発を基本にして行っていくべきだと思います。なぜなら、自衛隊仕様で限られた数しか使わない飛行機を開発して飛ばすと、1台当たりの開発コストと維持費が非常に高くなってしまうからです。しかしこれが国際標準になると、同じ飛行機を数百機から数千機作ることになります。そうすれば、1機当たりのコストが減り、防衛産業にもプラスになります。
そうした意味で、今まで独自開発として進められてきた防衛装備には、限界が来ていると考えられます。むしろ良いものであればいろいろな国で使われるという考え方にシフトして行くべきだと思います。実は最近、防衛装備移転の3原則が見直され、現在では共同開発ができるようになりました。以前はそれが不可能だったので、防衛装備を自前で作り、自分たちでのみ使用していました。これでは一機当たりのコストが高く企業ももうかりません。これからは共同開発で、どんどんもうけることができるように、やっていければと考えています。
例えば、日本では、水陸機動団という、アメリカの海兵隊のようなものを現在、作っています。そこで使われる水陸両用車を現時点ではアメリカから買っており、それを訓練で使用しています。しかし、能力的にいえば、日本の開発技術も非常に高いので、これを共同で開発していく方向もあり得ます。例えば、日米で共同開発する場合、アメリカの海兵隊はすごい数ですから、性能が良ければ西側がみんな使い始めるでしょう。
このように考えると、同じ開発をするのであれば他国も使ってくれるようなものを作っていく方が良いでしょう。ただ、「日本が独自に作ったから買ってね」では誰も見向きもしません。だからこそ、「共同でやりましょう。日本は半分、あるいは6~7割を負担しますよ」ということで、できた車両のうち何割を自衛隊が使い、何割をアメリカ軍が使うことになれば、企業側も「それくらい使えるのであれば、もう少し研究開発を進めよう」ということになるのではないでしょうか。逆にいえば、日本だけでの開発はすでに限界がきていると思います。
―― 共同開発によってマーケットシェアを取り、コストダウンさせていくということですね。
小野寺 そうです。
●自国装備を他国に売り出していく戦略は世界各国で行われている
―― そして世界中に出していくという戦略でしょうか。
小野寺 逆に日本の産業も、こうした戦略によって次の研究開発のための投資ができるようになるでしょう。これにより、産業に強い体質が作られていきます。そうでなければ、コスト的にも技術的にもどんどん劣後していってしまいます。
―― そのあたりについては、アメリカを除くとフランスやイスラエルがうまいのでしょうか。
小野寺 そのような国々の国防担当の大臣たちのうち、半分くらいは「自国の装備を買ってほしい」と言ってきます。ですから、防衛大臣として大臣会合を行っても、アメリカは違うのですが、いくつかの国から「ところで、うちのこの装備、すごく性能が良いんだけどどうだ」などと言ってきます。こうしたことがよくあるのです。だからどの国も、防衛装備は開発費にお金がかかるという同じ悩みを抱えていることが分かります。防衛装備に企業がしっかりと関わっていくには、開発した装備を他国の軍にも装備も売らなければならないということなのだと思います。
●軍事研究を拒否する日本の大学の不思議
―― なるほど、原理は同じですね。日本の場合だともう一つ、アカデミアに問題があると思います。日本の大学には、防衛大学のような特殊な大学を除いて、およそ軍事学を教える先生はいません。軍事戦略論や軍事史などについて、アカデミズムがほとんどサポートをしませんね。
小野寺 むしろ日本の大学には、防衛関係の研究をするのはダメだとおっしゃる先生も多いですね。防衛省も研究費を持っているので、軍事に関する基礎研究をこの研究予算で進めませんか、と提...