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いかに「使える自衛隊」に変えていくか

自衛隊改革~使える組織へ(1)「成功体験」や「伝統」を見直せ

情報・テキスト
変わりゆく時代状況において、自衛隊も変革が求められている。しかしながら伝統的な組織運営から「使える自衛隊」に変えていくには、地道な説得と自己改革が必要である。アメリカとの比較から分かったのは、国防や安全保障についての国民の関心と自衛隊への尊敬、そして彼らの働きにふさわしい処遇の重要性である。(全4話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:55
収録日:2019/06/19
追加日:2019/10/17
カテゴリー:
≪全文≫

●太平洋側にある戦車を日本海に移動するのに1週間かかる?


―― 日露戦争から第一次世界大戦第二次世界大戦と進んでいく中で、戦争のやり方ががらっと変わりました。日本は当時、経済力が乏しかったこともあり、装備や戦術の面で他国に先行することがなかなかできませんでした。そのような中、大艦巨砲主義というメンタリティーが多くの人たちを圧倒的に支配していました。一方、現在ですが、それでも陸空海それぞれにおいて既存の価値観があり、その部隊で育ってきた愛着などがあるかと思います。しかしもはや、戦争は戦車対戦車で戦う時代ではありません。この点を変えていくにはものすごく努力が必要だと思います。

小野寺 そうですね。例えば私たちは、『失敗の本質』などの本を読み、なんとなく、日本軍は物量で負けたと考えがちです。しかし逆に、日本は物量で勝っていたのにもかかわらず作戦で大負けしたことも、いくつもありました。どうやら、今までの成功体験を引きずったことが原因で大失敗するというのが、日本の今までの特徴であるといえそうです。

 私が防衛大臣になって一番思ったのは、「使える自衛隊」にしたいということでした。ある時、防衛省の幹部に、次のように質問をしました。「たとえば、北朝鮮情勢の悪化に備えて、太平洋側にある戦車を日本海側に緊急に配備したいとなったとき、どのくらい輸送に時間がかかりますか」。そうすると「だいたい1週間ほどいただければ、配備することができます」という答えでした。これには、びっくりしました。今どき歩いて行くわけでもないのに、どうしてそんなに時間がかかるのかと聞いてみると、「重い戦車ですから、(そのまま)公道は走れません。ですから、トレーラーで運ぶのです。しかも、民間の輸送会社にお願いする必要があります。重いので、一台そのままでは運べないので、分解して、分けて運びます。さらに、向こうに着いたら一度分解したものをもう一回組み立てて、それでようやく使えるようになります。だから1週間ほどかかるのです」と答えました。これでは、戦争は終わってしまうではないかと思いました。

―― なるほど。

小野寺 さらに「戦車はどのような時に必要なのか」と尋ねました。すると「相手が戦車であれば、対抗するために絶対戦車が必要です。戦車は陸自(陸上自衛隊)の魂です」という。そこで「日本に相手の国の戦車が来る状況は、どのようなときか」と聞きました。すると、「そのような状況は、おおよそ想定できません」というのです。「だとすると、戦車はいらないということですね」と確認すると、「そうかもしれません」と答えました。それで実は、基本的に本州から戦車をなくしました。

 その代わりに、機動戦闘車という、上部は戦車で下部が(キャタピラーではなく)タイヤになっていて、タイヤで走ることができる車両を導入しました。これならば自分で高速道路を走ることができるので、それこそ半日もかからずに、太平洋側から日本海側に速やかに展開することができます。こうした機動力を持って事態に対応することも、重要だと思います。機動戦闘車は、空輸もできます。こうして現在、使える装備を持つ「使える自衛隊」への転向を、どんどん進めているのです。


●誰しも自分の専門の「伝統」を守ろうとする


―― そのように、自衛隊員のマインドをチェンジすることは非常に大変だと思います。組織の人々は、ある1つの価値観で育ってきて、そこで技能を身に付けています。その人たちに大きく状況を変えていくことを説得していくのは、ものすごく大変なことです。改革をしても、改革者がいなくなるとすぐに元に戻りたがるものです。このあたりはどのようにお考えでしょうか。

小野寺 私は全国にある150以上の部隊を回ったのですが、1つひとつを見ると「あれっ」と疑問に思うことがたくさんあります。例えば、自衛隊には陸海空それぞれの部隊がありますが、そのうちの陸上自衛隊の中でも、職種はたくさんあります。戦車、大砲、歩兵、ロジスティックスなど、いろいろな分野に分かれているのです。さらに、そのうちの大砲も、大型の大砲から小さな迫撃砲まで分かれます。例えば、ある隊員は防衛大学校を出て、初めにいずれかの職種に配属されるのですが、それがある面では、彼の生涯にわたっての専門になるわけです。

 そのような自信の専門分野は、やはり誰もが維持したいと考えるものです。そのため、幹部になっても「自分は特科(=大砲の部隊)なんです。そこが自分の原点です」などといいます。しかし今どき、どこで大砲を使うかです。「この大砲は射程が50キロメートルです」と説明されれば、「すごいな」となりますが、しかしそこで、「では、それをどこで使うのですか?」と聞くと、「多分使うことはないでしょう」という。「それでは、これは本...
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