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世界に「Me First」の流れが拡大する中、日本が取るべき道とは

2020年頭所感(1)米中貿易戦争激化と日本が取るべき道

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
小宮山宏氏が2020年を迎えるにあたり1年を展望して3つの大きなテーマを取り上げる。その第一は米中貿易戦争に象徴されるブロック経済の潮流である。世界が自国第一をうたう状況下で、日本は今後どのような舵取りをしていくべきなのか。小宮山氏はまず国内投資の強化が重要だと説く。(全3話中第1話)
時間:08:36
収録日:2019/12/09
追加日:2020/01/01
カテゴリー:
≪全文≫

●世界にまん延する「Me First」の傾向


 明けましておめでとうございます。テンミニッツTVの座長をしております小宮山宏です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今年何が起きるのかというのは、もちろん予測がつかない面がありますけれども、ここでは三つほど取り上げたいと思います。1つ目は米中の対立構造です。二つ目はオリンピックがあるということで、それをどう考えるかということです。三つめは、2019年12月に開催されたCOP25の結果を受けて、地球の問題をどのように対応していくのかということです。この3つについてお話をさせていただきたいと思います。

 まず米中の対立の問題についてですが、今この問題がさらに発展して、世界中が「ミー・ファースト(Me First)」という、極論すると自分の国の問題だけを考えるということで、政治的にはそれぞれの国の短期的な国益に寄与するような主張をする政党がだんだんと力を得ていっているという状況にあります。

 この傾向というのはそう簡単には止まらないでしょう。第一次世界大戦第二次世界大戦の時も、ある種同じようなブロック経済、あるいはミー・ファースト的な動きになっていって、それを解決したのが戦争なのです。もし今度、本当に大国間の戦争が起こると核戦争ということになってしまい、そうなると地球の終わりになるということが分かっていますので、なかなかそうはならないでしょう。もちろん人間というのは愚かな面がありますから分かりませんが、多分大丈夫だろうとは思います。


●海外投資型一辺倒だった日本


 一方で貿易額などはだんだん減少しているという傾向がすでに出ているわけで、この傾向は2020年も続くと思います。こういうときどうするのか。私は我田引水ではないのだけれども、日本国内への投資というものを国を挙げて考え、国の中を強くすること。これが一番重要なのだろうと思います。

 というのは、大企業を中心にずっとここ20年といった単位では、グローバライゼーションということで日本の大企業の多くは海外に出ていっています。そのこと自体の背景をよく考えてみると、日本の中には新たに投資をしてもうかるところが不足しているということで、海外に新天地を求めて出ていくため、資本が出ていっているということなのです。

 これ自体はそれこそ資本主義経済の流れですから、当然だと思うのです。しかし、それは本当は途上国の話なのです。途上国でこれからいわゆる20世紀型の経済が機能し得るところに投資してもうける、ということなのですが、最近はそれだけではなくて先進国にも出ていっているのです。例えば、先進国の再生可能エネルギーなどに非常に大きな投資をしていたり、農業に対して投資をしてみたりということが、海外で行われるようになってきています。

 一方、日本の国内は大丈夫なのかというと、いいところはあります。東京や名古屋などは非常に力強いですし、他にもいくつかいいところは散見されます。だけれども、どうなんでしょう。ほとんど新しい投資が行われないので、ほとんど良くならないという状況になっています。


●日本は可能性の大きい6つの領域で国内投資を強化するべき


 では何を投資しなければいけないのか。あるいはどういう投資の機会があるかというと、やはり1つは健康だと思います。それから教育、それから「六次産業」といってもいいのですが一次産業をベースとした産業です。また再生可能エネルギーインフラ、そして観光。この6つは、これから伸びる産業、しかも先進国・途上国を問わずこれから非常に重要になる産業であって、世界を引っ張れる産業です。ここにどうやって投資をしていけるかというのが、日本にとって非常に重要だと思います。

 世界でグローバルな状況がどうなろうと、結局は自分の国を強くするというのが、一番大事なことです。それが今もうすでに企業が勝ち残る、生き残るということと国が勝ち残る、生き残るということが必ずしも同じでなくなってきています。例えば、今、再生可能エネルギーは安くなっているので世界でどんどんと投資が進んでいます。そして、その海外の投資を最も多く行っているのは、実は日本なのです。しかし、そうなると、海外の国々はサステナブルで安い電気を享受して、日本はあいかわらず高い電気に依存するということになってしまいます。

 こうした構造は極めて好ましくありません。また、米中の対立を原動力とするブロック経済化が起きているわけですが、そうした状況下で日本の中を強くするというのはある種、時代にも合っています。

 ということで、先ほど申し上げた6つの領域で日本が国内に投資をしていくということが、極めて重要な2020年の問題であると私は思います。
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