●戦いの後の明暗を分ける無傷で勝つことの意味
孫子の3篇目は、謀攻篇です。これは、謀略を攻めるということであり、逆に戦わずして勝つということの本旨を言っているところで、非常に重要なところです。
まず、「孫子曰く、凡そ兵を用ふるの法、國を全うするを上と爲し、國を破るは之に次ぐ」ということです。これは何のことを言っているのかというと、戦争になったらお互いに傷つきますが、その戦場が自国の中であれば、戦火にすべてが破壊されてしまうようなことは良くないと言っているわけです。ここでもまた、戦わずして勝つという精神が説かれているわけです。それは何なのか、なぜいけないのかということです。
これは、非常に重要なことです。例えば、戦争に勝ったとするとどうなるのかですが、戦争に勝ったわけですから、その領土というものは自国の領土になるわけです。そうすると、先ほどまで戦争して自分たちが徹底的に破壊した、もう瓦礫の山というそのような地域が自国になってしまうわけです。そして自国になった瞬間に、今度は戦後の復興というものを考えなければいけないという、そういう政治の対象になるということです。つまり、勝った瞬間に敵地が領土になり、領土になれば戦後の復興にものすごいお金が必要になるということで、それは勝ったと喜んでいいのかどうかということになるわけです。
したがって、全うするというのは、無傷でということなのです。ですから、勝つとするにしても、無傷で勝っていくということが重要なのです。要するに、勝つためには戦わなければいけませんが、できるだけ損傷を浅くして勝つということが重要であると、ここで言っているのです。
さらに今度は、単位が国から軍で、「軍を全うするを上と爲し、軍を破るは之に次ぐ」というようにして、これから「旅を全うするを上と爲し、旅を破るは之に次ぐ。卒を全うするを上と爲し、卒を破るは之に次ぐ。伍を全うするを上と爲し、伍を破るは之に次ぐ」となっていきます。これは「伍」という、5人編成が軍の最小単位ですが、この「伍」という5人編成が5つ集まったものを「両」といいます。この「両」が4つ集まったものが「卒」であり、ここで100人になります。それから、その「卒」が5つ集まったのが「旅」であり、ここで500人にな...