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諸外国から尊敬される国になることが最大の軍事力となる

『孫子』を読む:謀攻篇(3)彼を知り己を知れば百戰して殆からず

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
世界は現在も主義主張や宗教、さらには人種問題で対立や緊張が続いているが、それを解決するための方法、考え方が『孫子』には詰まっている。謀攻篇最終話は、いわば対立・競争から共生・融合への提言である。(全3話中第3話)
時間:11:21
収録日:2020/01/24
追加日:2020/09/09
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キーワード:
≪全文≫

●強い国家ほど周到な準備をしている


 その次、「夫れ將は國の輔なり」です。将軍というのは国家の中心にあるべきもので、つまり戦いの現場の長ですから、とても大切だということです。それから「輔周なれば則ち國必ず強く」とありますが、「輔周」というのは何かというと、補佐としての将軍がとても周到ならばということです。つまり、準備周到に全て備えあれば憂いなしでやっているような、そのような現場の長がいれば、この国は必ず強いわけです。「輔隙」というのは、補佐の将軍が隙だらけでまったく考え方もなっていないということで、そうであればその国は必ず弱いと挙げているのは、そういう現場の長しか集まってこない国であるということです。それから、周到な準備をするような国ではないということです。

 その意味では、わが国なども、どこからミサイルが飛んでくるのか分からないわけです。そういうときどうしたらいいかというと、それは米軍が、と必ず言いますが、はたしてそのようなことだけでいいのかということです。ミサイルが飛んでこないようにするにはどうすればできるのかという努力を、もっと根本のところを国会で討論するべきではないかと、私などはこういうのを読むと必ず思います。

 さて、次に「故に君の軍に患うる所以の者は三あり」というように、君主がまず問われなければいけないことは三つあると言っています。まず第一が、「軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂ひ」です。もう進軍してはいけないというのに、進めと言うのはどういうことかというと、戦争をやってはいけないと言っているのに、戦争に持ち込むような指示や命令をするということです。これはとてもいけないことです。

 なぜ戦争になってしまうのかというと、世論というものがあります。そのようなとき世論は、戦争に対して慎重な政権とか政治家に対して腰抜けとか言って、戦わせようと威勢のいいことばかり言うわけです。このようなことは、我々もたくさん経験してきたと思います。そういう意味で世論というものは、いつも冷静になっていることが重要なのだということを、国民がこぞって言い合っていかなければいけないと、ここで言っているわけです。


●尊敬されることが最大の軍事力となる


 さらに「軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂ふ」ですが、これは同じことです。それから「是を縻軍(びぐん)」という、言ってみれば自由のない、トップの言いなりになっている軍隊という意味です。

 それから「三軍の事を知らずして、三軍の政を同(とも)にすれば、則ち軍士惑ふ」とは、君子と将軍の間がしっくりいっていなくて、国家の長と現場の長の意見が一致していなければ、軍隊は惑ってしまうということです。これが第二です。そのような状況は、各国にもよくあることで、今、わが国もそういうことがあるかもしれないのです。

 それから「三軍の權」というのは、要するに権威です。そういうものを知らずに「三軍の任を同<とも>にすれば」、つまり任命をともにするということで、「則ち軍士疑ふ」となります。どちらの言っていることが大切なのかということで、やはりそこに矛盾があってはいけないわけです。これが第三です。要するに自国を守れというのであれば、守れるだけのものを国論として一致させていかなければ、守れるはずがないのです。軍隊が迷ってしまうわけで、そういう状態が一番いけないということです。

 それが「三軍既に惑ひ且つ疑はば、則ち諸侯の難至らん」となり、そういう状態を一番感ずるのが周辺諸国であって、この国は取るに足りない国だと見られるわけです。国論が一体化されていないとか、上と下の関係がうまくいってないなどはすぐに表れてしまいますので、これはもうすぐに攻めていけると思われて、ばかにされる国なってしまい、これが一番いけないことです。したがって、「是を軍を亂(みだ)し勝を引くと謂ふ」と言って、これこそが戦わずして勝つためには、諸外国からばかにされない国になるという、むしろ諸外国から尊敬される国になることが最大の国力であり、防備であり、軍事力なのだということです。そのことを、ここで考えていただきたいということです。

 したがって、「故に勝を知るに五」で、5つのことがあるのです。「以て戰ふ可きと、以て戰ふ可からざるとを知る者は勝つ」ということですから、今、戦ってはいけないと。それから戦わなきゃいけないときもあると。そういうことを知っていれば勝つわけです。それから...
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